• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2019 年度 実施状況報告書

ヴァルター・ベンヤミンの歴史哲学の総合的研究

研究課題

研究課題/領域番号 17K02197
研究機関西南学院大学

研究代表者

森田 團  西南学院大学, 国際文化学部, 教授 (40554449)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワードベンヤミン / ローゼンツヴァイク / コーエン
研究実績の概要

令和元年度は、ベンヤミンの歴史哲学にかかわる問題を、まず美学的観点から研究した。研究計画ではアレゴリーと想像力の問題を扱うとしたが、この問題をより根底的に検討するためである。その際、哲学史的な連関を重視し、フィヒテの自我論とヘルマン・コーエンの美学を参照しながら、ベンヤミンにおける芸術作品の理解と感情の問題について研究を進めた。その成果はフンボルトコレーク2019東京「神経系人文学と経験美学」にて発表した(Zwischen philosophischer und empirischer Aesthetik: Form, Gefuehl und die aesthetische Erkenntnis)。
大学院演習では、フロイトの『トーテムとタブー』をとりあげ、とりわけ投射の概念を検討し、アレゴリーと想像力の問題について新たな視点を得た。また後期においては、ハイデガー『芸術作品の根源』とベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」の比較を試み、今年度の研究計画にもあるハイデガー哲学とベンヤミンとの関係を思考するうえでの準備とした。
レヴィナス協会でのシンポジウム「レヴィナスとローゼンツヴァイク 歴史と物語をめぐって」での発表では「瞬間・反転・啓示――ローゼンツヴァイク『救済の星』における性格の概念」と題し、ローゼンツヴァイクの人間概念の構成についての考察を、性格概念を手掛かりに行った。ローゼンツヴァイクのベンヤミンへの影響は、とりわけ『ドイツ悲劇の根源』において色濃くみられるが、そこでの悲劇論を考えるためにも、ローゼンツヴァイクの人間概念を検討することは必要不可欠である。というのも、人間概念の範例としてローゼンツヴァイクが念頭においているのがギリシア悲劇の英雄であるからである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究は研究計画通りにおおむね順調に進められている。令和元年度は、一方でベンヤミンの美学的な思考、他方でローゼンツヴァイク哲学の検討によって、迂回しつつも、アレゴリー(ないし記号)と想像力の問題の核心へと向かう仕方で考察することができた。ローゼンツヴァイクの性格概念は記号概念と密接なかかわりがあり、発表ではその関係の手掛かりを得ることができた。さらに言えば、『救済の星』についての包括的な研究の端緒をつかむことができたことは、本研究にとって大きな収穫であることも強調しておきたい。というのも、ベンヤミンの歴史的思考は、この研究計画の趣旨のひとつでもあるが、同時代の哲学の試みの布置のなかではじめて際立つからである。ローゼンツヴァイクの思考は、いままでの検討のうちで欠けていたもっとも大きな部分であり、この意味でも令和元年度の研究の成果は大きいものであった。上記の発表に基づいた論文「『救済の星』における性格概念――ローゼンツヴァイクによる人間概念の再解釈」は、初夏には『レヴィナス研究』に掲載される予定である。
またベンヤミンの美学的な思考をヘルマン・コーエンとの対比で検討できたことは、今年度の課題であった想像力の問題の基盤を再考するうえで、必要不可欠なものであった。上に挙げた発表では、フィヒテの自我感情の概念から出発し、それを引き継いだように思われるコーエンの感情ならびに感動の概念を通して、ベンヤミンが美的直観の概念をいかに練り上げているのかを考察した。その際、得られた洞察として感情というものが伝達の形式であり、芸術作品の形式を賦活する媒体であることである。この洞察をもとにして、想像力、記号、言語の問題の連関を改めて考え直すことは今後の課題である。

今後の研究の推進方策

令和2年度は、平成28年度、平成29年度、ならびに令和元年度の成果を踏まえて、本研究の総括を含めて、ベンヤミンの歴史と言語の思考を、とりわけハイデガーとの関連において究明することを試みる。その際、大学院での講義ならびに演習(ハイデガーの芸術論を扱う)を活用しながら、研究を進めたい。現在、新型コロナの影響で先行きが見通せないため、学会での活動は未定としたい。
令和2年度より、所属機関が変わり、同志社大学文学部美学芸術学科においての研究活動を続行するにあたって、とりわけベンヤミンの歴史哲学と言語の関連に加えて、本研究計画が取り組んできた同時代の美術史的言説、精神分析的言説の検討を、美学ないし芸術哲学のパースペクティヴから再検討を加えるほか、演習で取り組んでいるカントの『判断力批判』の講読の成果も、そのベンヤミンの影響を含めて、今年度の研究に盛り込み、新しい研究計画についての展望を開くつもりである。

次年度使用額が生じた理由

所属機関の変更にともなう諸手続きや準備のため、また新型コロナの流行のため(海外)出張を含めての(春休みの)計画が遂行できなかったため、今年度は予定通り、予算を消化することができなかった。令和2年度も、新型コロナのため見通しは立てにくいものの、残額を含めて適切に予算を消化できるよう計画を立て直したい。その際、現状を鑑み、予算に計上していたものに加えて、さまざまな研究協力が実行できるようなIT機器(携帯用PC、ビデオカメラ、スキャナーなど)を購入する予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2019

すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)

  • [学会発表] Zwischen philosophischer und empirischer Aesthetik: Form, Gefuehl und die aesthetische Erkenntnis2019

    • 著者名/発表者名
      Dan Morita
    • 学会等名
      Humboldt-Kolleg 2019, Tokio
    • 国際学会
  • [学会発表] 瞬間・反転・啓示――ローゼンツヴァイク『救済の星』における性格概念2019

    • 著者名/発表者名
      森田 團
    • 学会等名
      レヴィナス協会
    • 招待講演

URL: 

公開日: 2021-01-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi