最終年度は、ローゼンツヴァイクについての論文を公表し、ベンヤミンのアレゴリー解釈をめぐる研究発表を行った。前者はローゼンツヴァイクの人間理解を、反復と瞬間という二つの時間形式との関連において解釈したものであり、後者はベンヤミンの『ドイツ悲劇の根源』におけるアレゴリー論を、十七世紀悲劇の詩句の解釈に基づいて、再構成することを試みたものである。 研究期間を通じて、ベンヤミンの歴史哲学ならびに言語哲学を、周辺諸科学――とりわけ美術史学と精神分析学――そして、同時代の哲学――とりわけハイデガーとローゼンツヴァイクの哲学――との関係を通して考察した。美術史学との関連については、リーグルの触覚概念とベンヤミンの歴史哲学ならびに芸術をめぐる思考との関連、フロイトの精神分析については、『トーテムとタブー』における呪術、模倣、遊戯、投射などの概念と、ベンヤミンの言語概念、また芸術解釈との関連を中心に研究をすすめ、両者がベンヤミンの歴史哲学と芸術哲学の理論構成において果たす役割について一定の見通しを獲得することができた。 同時代の哲学との関係については、ハイデガー、ローゼンツヴァイク、そしてベンヤミンの哲学に共通する思考のひとつが、人間と記号(使用)の関係と、その歴史(時間)性についての哲学的洞察であり、その思考の同一性と差異について、一定の理解を得ることができた。公表したハイデガー論とローゼンツヴァイク論において、関連する解釈の一部を示している。 ベンヤミンの歴史哲学を、言語哲学との関係に重点を置き、以上のような思想史的な文脈を踏まえ解き明かそうとした本研究は、歴史的生の根本的な理解が、時代固有の記号使用――この分析がベンヤミンの芸術哲学の中心を構成する――と切り離せず、その命運の認識が、ベンヤミンの歴史哲学の核心のひとつであることを基礎づける試みであったと総括することができる。
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