研究課題/領域番号 |
17K02198
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研究機関 | 長野県立大学 |
研究代表者 |
馬場 智一 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 准教授 (10713357)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コーヘン / ユダヤ哲学 / 宗教哲学 / 超越の現象学 |
研究実績の概要 |
新型コロナウィルス蔓延のため昨年度に引き続き、計画していた渡仏は延期した。その代わり、研究打ち合わせを予定していたソフィー・ノールマン氏(EPHE)のゼミにオンラインで出席し、コーヘン宗教哲学などを下敷きにした、氏の著作、『超越の現象学 Ⅱ 世界』の内在的な理解に努めた。 研究計画最終年度は、コーヘンの宗教哲学が持つ現代倫理学的な意義について考察する予定であった。Nordmann氏の著作は、そのような考察の一例である。人間の人間性をめぐる現代の議論では、人間と他の動物との境界線が揺らぎ、人間の尊厳そのものが相対化される動向が見られる。氏が想定しているのはフランスにおける議論であるが、同様の議論はシンガーの功利主義的な動物権利論にも当てはまる。ノールマン氏は、カントの尊厳概念を、コーヘン、ローゼンツヴァイク、レヴィナスといったユダヤ系哲学者の提示した超越をめぐる議論を基礎にして、改めて再定義する。氏によれば、人間の〈人間性〉は、理性といった人間が所有していると想定される属性からなるのではなく、思考による世界の超越という、世界との関係の独自性に存している。 彼女の議論には、人間の人間性を属性に還元することで人間性がむしろ溶解しつつある現状に対して一石を投じる目論見があるが、これはコーヘンの宗教哲学を基礎の一つとして展開されている。人間の尊厳をめぐる、あるいはカントの尊厳概念をめぐる現代の議論状況の中に彼女の批判を位置付ける作業が今後必要となると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
渡仏を計画していたが、延期を余儀なくされた。とはいえ、遠隔会議システムにより演習参加が可能になり、ユダヤ哲学の現代性をめぐる最新の議論を目の当たりにし、当初の遅れを取り戻すことができた。ただし、これまでの年度で遅れた作業については次年度実施しなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
コーヘンのスピノザ解釈(および他の「コーヘンの子供たち」のスピノザ解釈との比較)、コーヘンの宗教哲学と現代の徳倫理との比較はまだ実施できていないのでこれを行う。おそらく渡仏はできないので、旅費として計上していた研究費は、現状で不足している文献の購入に充てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き新型コロナウィルスのため計画していた渡仏ができなかった。次年度も渡仏は難しいことが予想されるので、研究の過程で新たに必要になった文献の購入に充てる。
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