中国宋明の士大夫思想文化の基礎としての道学の思考枠を定立したのは、北宋の程顥・程頤である。本研究は、その後の南宋初から南宋末までの期間の「二程」関連の思想文化現象を精査し、その展開を士大夫道学運動年表として表すことを当初のねらいとした。 当初計画での最終2019年度は、①『朱子語類』巻95~97「程子之書」解読の続行、②南宋における程門関係者以外の士大夫の「程子」像の探査、③南宋士大夫道学運動年表の作成を挙げた。ただし、機関異動のため実施が遅れ、「二程」からみる南宋の道学の展開という内容を、「南宋の『孟子』論の様態」という視点からかたちあるものとし、計画③の「年表」はこの成果の刊行を受けて作成することとした。コロナ状勢による20、21年度延長期間はこの19年度新構想を出発点としたが、教学面に力を向けざるを得ず、研究を詰めるまでに至らないまま、期間終了を向かえた。 2021年度の研究発表リストの後半二件は、上記計画の①に対応するものである。訳注全体は未完だが研究的意義が高いので訳注は今後も継続する。初めの一件は、二程の「理」の朱熹における展開を検証した19年度国際学会予稿集論文を改訂し、本年度公刊となったものである。上記課題②については、2020年度に前提論文「『孟子』の北宋を読み解く」を公刊し、また「南宋前期における道学系孟子論の展開」を口頭発表した。後者は21年度に公刊するにはなお検討を要する課題が残り、22年度以降の公刊になる。 『孟子』書は中国戦国時代の多様な要素を総合的に内包し、後世はその要素を分解し、各時代の課題に合わせて読解、使用した。北宋から南宋にかけては、広義の道学(程学)、狭義の道学(朱熹思想)の展開の中でその使用様態が分化していく。その追跡は南宋の広狭の道学展開様態をあらわす指標となる。未完成様態ではあるが、19年度新構想以後の本研究の意義はここにある。
|