研究課題/領域番号 |
17K02217
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡野 潔 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (80221844)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 仏教説話 / インド仏教文学 / ネパール仏教文学 / ジャータカマーラー / アヴァダーナ / サンスクリット文学 / サンスクリット仏教文学 / 本生話 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、平成29年4月の交付申請書に記したように、4年間で次の (1) から(4) の4種類のテクストについて、飜訳や梵文の校定などの原典研究を行うことを目的とする:(1) 『ハリバッタ・ジャータカマーラー』(略号 HJM);(2) クシェーメーンドラの『菩薩のアヴァダーナの如意蔓』(略号 BAKL);(3)仏伝『如来出生アヴァダーナマーラー』(略号 TJAM); (4) 『善説語・大ラトナ・アヴァダーナマーラー』(略号 SMRAM)。 研究期間の2年目の平成30年度の研究は実施計画どおりに進捗し、以下の成果を得た。まず、上記の (1) の研究として: 『哲学年報』第78輯(2019年3月)に載せた私の論文(総頁数:59頁)において、HJM の第6章から第8章と、第11章の和訳を発表した。(前年度の1年目に5つの章を訳し、この2年目に4つの章を訳したので、これでHJMの9つの章を訳し終えたわけである。) また上記の (2) の研究として: 前年度に提出した「今後の推進方策」に記したとおりに、平成30年度はBAKL第84章マドゥラ・スヴァラの研究を行った。この研究は次年度に発表される。また上記の (3) の研究として: 前年度の「今後の推進方策」に記したとおりに、TJAM 第14章の校訂・飜訳の準備を行った。この研究も次年度に発表される。 また上記の (4) の研究として: 『六道頌』の梵蔵漢巴対照テキストを、『南アジア古典学』第13号(2018年7月)に論文(総頁数:164頁)として発表した。私はこの『六道頌』(SaDgatikArikA)という作品を、SMRAM 第21章の梵文テクストの中に、ほぼ丸ごと引用されているのを発見した。その梵文は SMRAM の写本に基づいて校訂された。その発見の別の成果は『印度學佛教學研究』に、論文(2018年12月)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の (1) の研究は、本研究課題のいわば最大の目玉であるため、研究の1年目と2年目に、その課題の進捗のために全力を傾けた。その結果、1年目と2年目だけで合計で HJM の九つの章の和訳を発表することが出来た。この成果は当初予定された実施計画をはるかに超えたスピードでの進捗であるといえる。 上記の (2) と(3) の研究は、年度実施計画どおりに進捗している。それぞれのテクストについて得た成果は来年度に発表される。TJAM 第14章は長いテクストであるため、申請書の研究実施計画に記したように、2年に分けて、章の前半と後半を別々に発表してゆく必要がある。 上記の (4) の『六道頌』の梵蔵漢巴の4言語テクストの校訂研究は、当初の研究計画に無かったものであるが、1年目に、その『六道頌』のほぼ全文の梵文テクストがSMRAMの21章の中に埋もれているという大きな発見をしたため、急遽そのテクストの研究と発表を優先させたものである。この2年目に発表した164頁もある長い論文は、国際的にも大きな反響を得た。この梵文『六道頌』の発見と、それに続く4言語テクストの対照研究は、本研究課題における、思いがけない最も大きな成果であるといえるかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
申請時に立てた本研究課題の推進方策に、基本的な路線変更は無い。2019年度以降については次のような研究計画を立てている。 (1)の HJM についてはさらに幾つかの章の翻訳を行う。この(1)の和訳研究が、本研究課題においては最大の目玉なのであるが、1年目と2年目に、すでに予定していた Michael Hahn が校訂した梵文 HJM のかなりの部分について和訳を発表したため、今後は、(2)(3)(4)の研究のエフォートを増やしたい。 (2)の BAKL については、チベットで極めて重要な BAKL の2貝葉写本が発見されるという、研究者にとっての大事件があったため、海外の研究者たちと連絡を取り合い、共同でその2写本の研究を進めてゆくことなる。とりあえずは次年度に、その2写本を用いた、第84章マドゥラ・スヴァラの研究を発表したい。 (3)の TJAM の研究は、申請時の計画どおりに、TJAM 第14章の校訂・飜訳を行う。第14章は長いため、章の前半と後半に分けて、2年かけて、校訂・飜訳を発表してゆく予定である。 (4)の SMRAM の研究は、その第21章の研究において、『六道頌』の梵文テクストの発見があったので、2018年度にはその『六道頌』の部分に焦点を当てて、その研究を発表したが、次年度の2019年度にはSMRAMの第21章の章全体の校定・和訳を発表する。また、SMRAMとTJAMの写本の筆写生に関して、私が得た大きな発見について報告する予定である。
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