研究課題/領域番号 |
17K02218
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山部 能宜 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40222377)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | アーラヤ識 / 身心相関 / 禅定 / 種子 / 種姓 / 習気 / 同時因果 / 異時因果 |
研究実績の概要 |
Lambert Schmithausen教授のアーラヤ識起源論を踏まえつつ、その再検討を進め、その成果をJournal of Indian Philosophyおよび『日本仏教学会年報』に発表した。これはアーラヤ識が過去の経験を蓄積し、その結果として我々の認識世界を展開させる、表層心の基盤としての機能をもつのみならず、同時に身体の生命活動を維持する生理的基盤としての機能ももっていることに着目し、禅定の修行を通して身心の双方がそれぞれ麁重の状態から軽安の状態に転換するという行者の体験を通して、身心相関の要として人間の最深層ではたらいているアーラヤ識が見出されたのではないかという仮説を提起するものである。 またアーラヤ識説と密接に関係する種子説の発展過程を分析し、瑜伽行派における種子(界・習気)の説が、アーラヤ識説を前提としない異時因果から、アーラヤ識説を前提とする同時因果説へと発展していったのではないかと論ずる論文をSravakabhumi and Buddhist Manuscriptsに発表し、またロンドン大学東洋アフリカ研究学院(School of Oriental and African Studies, University of London)において関係する内容の講演および演習を行なった。 さらに、最初期瑜伽行派文献において「種子」と極めて近い概念である「種姓」の記述に現れる重要タームprakrtiおよびdharmataの分析を通して、松本史朗教授の「Dhatu-vada」論の再検討を行なう論文を、Critical Review for Buddhist Studiesに発表した。 さらには、『摂大乗論』所知依分の解読作業を進め、長尾雅人『摂大乗論 和訳と注解』上(講談社、1982年)に含まれるサンスクリット還元案の検討を行なった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題と関係した数篇の論文を、Journal of Indian Philosophyを含む海外の複数の媒体に発表することができたことや、上記の通りロンドン大学東洋アフリカ研究学院で講演・演習を行なうことができたこと等からみて、本研究は海外でも一定の評価を得ていると考えてよいであろう。
|
今後の研究の推進方策 |
今後とも、アーラヤ識説に関する最初期のまとまった論述を含む『瑜伽師地論』および『摂大乗論』の解読を進め、他の瑜伽行派文献と比較しつつ、実践的な観点から初期アーラヤ識説の背景の解明を試みたい。 またそれと併行して、2015年にウィーンで開催されたMarga学会で発表したアーラヤ識起源論に関する論文の刊行準備を進める予定である。 さらに本年8月には西安で玄奘に関する学会が予定されているので、玄奘が世親の『唯識三十頌』に対する十師の註釈書を編纂・漢訳したと伝えられる法相宗の根本典籍『成唯識論』の成立問題を、アーラヤ識説を中心として論じてみたいと考えている
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は当該研究に関係する海外出張が当初予想より少なく、またその出張旅費は先方により負担されるものであったため、旅費の執行額が当初予期したほどかからなかった。また、大学院生に資料整理補助をさせて謝金を支払うことを想定していたが、適任と思われた学生に時間的余裕がなく、実際に業務を依頼することが出来なかった。この二つの理由により、当初予算より執行額が少ない結果となった。 本年度はさらに精力的に文献解読を進めるとともに、より積極的に海外での成果発表を行ない、国際的な研究交流を推進していく予定である。
|