研究実績の概要 |
本年度は,まず8月に西安で開催された「玄奘与絲路文化国際研討会」に参加し,「《成唯識論》”糅訳”的仮説性再探」と題する基調講演を行なった,これは,アーラヤ識論・種子論に関する異説の検討を通して,『成唯識論』が『唯識三十頌』に対する十師の註釈書の説をまとめて編纂されたものだという伝承に疑念を投げかけ,現状の『成唯識論』と近いかたちの原本が存在した可能性を提起したものである. また11月にはナポリ東洋大学でThe Development of the Yogacara Bija Theory: Bija, Dhatu, Gotra, Vasana, and Conceptualization(瑜伽行派における種子説の発展:種子・界・習気および分別構想)と題する講演を行なった.これは,アーラヤ識説と不可分の教理である種子説の発展についての私の見解をイタリアの研究者・学生に対して提示したものである.種子・界・習気は瑜伽行派の教理では一般に同義語と見なされることが多いが,それらは本来の形態ではなく,習気が種子と同一視されるに至ったのは,瑜伽行派の教学が大乘化したことに伴うものだと私は考えている. 12月には,駒沢大学で開催された「スタンレー・ワインスタイン教授追悼国際シンポジウムー東アジア仏教研究のあけぼのー」において,「『成唯識論』における種子依の異時因果・同時因果の問題について」と題する発表を行なった.アーラヤ識説の導入により種子説が変容していく様を論じたものであり,この発表内容については現在公刊準備をすすめている. また,2月に駒沢大学大学院仏教学研究会主催の公開講演会において「アーラヤ識説と禅定実践の関係についてー特に身心論の問題に着目してー」と題する講演を行ない,アーラヤ識起源論をめぐる私の見解の現段階における全体像を提示した.本講演の講演録は近く刊行される予定である.
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