研究課題/領域番号 |
17K02218
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山部 能宜 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40222377)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アーラヤ識 / 瑜伽師地論 / 成唯識論 / 種子 / 習気 / 禅定 / 感官 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず昨年度2月に駒沢大学で行なった公開講演「アーラヤ識説と禅定実践の関係についてー特に身心論の問題に着目してー」を公刊した。これは、アーラヤ識説導入と実践における身心相関の自覚との関係に関する私の最近の成果の概要をまとめたものである。 また、昨年度12月に駒沢大学で開催された「スタンレー・ワインスタイン教授追悼国際シンポジウム」において発表した「『成唯識論』における種子依の異時因果・同時因果の問題について」を論文化して提出した。瑜伽行派における種子説は異時因果説から同時因果説へと変遷していったものと考えられるが、それは種子のあり場所としてのアーラヤ識が導入されたことと並行していたと考えられるのである。この論集は現在刊行準備中である。 また、インド瑜伽行派における身心論を理解するための一助として、高度の禅定において感官が活動するのか否かについての問題を検討し、11月にアメリカ宗敎学会において、「深い禅定において感官知ははたらくのか?」と題する発表を行った。二禅以上では感官(前五識)ははたらかないというのが、有部・瑜伽行派における一般的理解であるが、これは理論的要請によるもので、必ずしも実際の体験をふまえていない可能性があることを指摘した。 さらに、昨年度8月に西安で開催された「玄奘与絲路文化国際研討会」で発表した「《成唯識論》”糅訳”的仮説性再探」を中国語・英語の二言語で論文化し、原稿を提出した。本稿は現在校正作業中である。『成唯識論』における種子の本有・新熏をめぐる議論に類似する議論が,チベット語訳で現存する『摂大乗論分別秘義釈』および『瑜伽師地論釈』に見られることから、『成唯識論』が同一の問題に対する異説を列挙して議論するのは、同論が「十師糅訳」の結果であることを示すのではなく、むしろそれが後期瑜伽行派の論書に一般的な形態であったことを示す可能性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り,研究によって得られた知見を積極的に発表し、また公刊する準備を進めており,研究は順調に進展していると考えてよいであろう。2020年度の前半に予定されていた国際学会の多くは、新型コロナウィルス蔓延の関係で延期となっており、暫くはこれまでと同じペースで発表を続けることが難しい状況となるが、その間に文献解読を進めて、手持ちの情報を増やすとともに考察を深めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
私が所属している早稲田大学では、現在大学院生とともに、縁起説に関係するインド瑜伽行派文献の解読作業を進めている。縁起説は言うまでもなくアーラヤ識説と密接に関係する重要理論であり、特にそこで言及される種子説は、アーラヤ識説の導入前後における教理的変遷を如実に示すものである。そこで得られた知見を、2020年度の研究に生かしていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は年度末の時期に新型コロナウィルス感染が拡大した影響で、年度末の研究活動にさまざまな制約がかかり、そのため若干の未使用額が生じました。2020年度も積極的な学会活動等は難しい状況が続いていますが、反面私が指導する大学院生の研究能力の向上が認められますので、当該学生に作業の一部を手伝わせて謝金を支出する等の方法で、研究の推進を図りたいと考えています。
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