本研究の全期間を通して指向したことは、身心相関の観点からみたアーラヤ識説の実践的側面の解明であった。2022年度は、海外の多くの研究者との交流のなかで、この点に関する議論と理解を深めるよう努めた。 北京大学で6月に行ったオンラインの公開講演「阿頼耶識的実践背景」は、まさにそのような場であった。この講演では、台湾を含む中国語圏の多数の研究者に聴講して頂くことができ、アーラヤ識説に関する私見を広く中国語圏の研究者に紹介するとともに、活発な議論を交わすことができた。今回コメントを担当された方からは、私の初期からの研究の経緯を概観するようなご紹介も頂き、自分の研究上の立ち位置を第三者の目を通して再確認することができ、大変有意義であった。 また、7月には清華大学でオンラインの公開講演"The Position of the Conceptualization in the Context of the Yogacara Bija Theory"(瑜伽行派の種子説の文脈における概念構想の位置)を行い、アーラヤ識説と密接に関係する種子説の発展過程を論じた。この際も多くの方の参加を頂き、瑜伽行派以外の分野の専門家の方から新たな視点でのご提案を頂くことができたのは、非常に有益であった。 さらに、2月には国立政治大学で、「觀想、禪修、禪窟:山部能宜教授的學思遊歴」のタイトルのもと、私の研究を代表する二分野であるインドのアーラヤ識説研究と中央アジアにおける禅窟・禅観経典研究を一度の講演会の前半と後半でまとめて論じた。極めて教理的な議論であるアーラヤ識説と、実践的な禅窟・禅観経典は一見非常に異質なものに見えるのであるが、私にとっては、いわば禅定実践の内景と外景であり、決して無関係なものではない。そのような私の研究の全体的枠組みを示すことができたのは、自分自身の研究を振り返る上でも貴重な機会となった。
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