研究課題/領域番号 |
17K02221
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研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
福田 洋一 大谷大学, 文学部, 教授 (00181280)
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研究分担者 |
石田 尚敬 愛知学院大学, 文学部, 准教授 (80712570)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | プラマーナ・ヴィニシュチャヤ / 仏教論理学 / チベット論理学 / カダム派 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、インド仏教論理学の大成者ダルマキールティの第二の主著『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』に対するチベット人による註釈書のテキスト入力および詳細な目次(科段)を作成し、インド仏教論理学の研究者およびチベット論理学の研究者が、『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』の原文に対する註釈を容易に参照できるようにする基礎資料を作成することを目的としている。 本年度までに、チベット人による註釈書7点の入力が終了し、それらを含め、1400年以前の現存するチベット論理学書も含め、全ての横断的検索と、入力テキストの公開が完了した。(1400年以降に書かれたと思われる唯一の『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』の註釈書(ダルマリンチェン)は本研究課題では対象外としている。)科段についても、3点については一応の入力は済んでいるが、『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』原文の対応箇所の調査は来年度の課題として残されている。 これらの註釈書の多くは、草書体写本で書かれており、そのまま読みこなすことは困難であるので、入力テキストはそれらを読解する際に極めて大きな利便をもたらす。同時にそれらを横断的に検索できるので、意味の明確でない術語を検索して、他の文献での用例を見ることによって、その意味を考えることができるようになった。たとえそれができても、実際にその術語の意味を理解し、またテキストの意味を読解することは、未だ極めて困難であり、今後の長い研究が必要とされる。しかし、その基礎として、本研究課題の提供する資料は極めて大きなアドバンテイジを提供するものと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の対象とするチベット人による『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』の註釈のテキスト入力はほぼ終了しており、計画は順調に進んでいる。ただし、そのうち1点については、ページ、行数が欠けているので、来年度それを補う作業が必要となる。また、註釈書6点の科段の対照表を作成する予定であるが、そのうち3点の入力は済んでおり、順調に作業が進んでいる。 読解研究については、個人的に進めているが、未だその成果を公開できるまでには至っていない。これは本研究課題による基礎作業が一段落してから、今後の長い研究を通じて積み重ねていかなければならないものと考えている。また、実際に他の研究者に対する本研究課題の成果の周知も、進んでいるとは言い難い。サイトはすでに公開されてから数年を経ているので、Googleなどで検索すればヒットするが、そもそもあまりにも難解であるために、この分野の研究を志す研究者が少ないことが大きな要因である。本研究課題は、基礎作業でできる限り研究のハードルを下げることに専念してきたが、さらにそのことを多くの研究者に積極的に周知していく必要も感じている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、本研究課題の目標であるチベット人による『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』註釈6点の科段表とその原典の対応箇所表示を完成させる。当初の計画では、28年前に作成した『プラマーナ・ヴァールッティカ』の科段対照表のように印刷物で左右見開き対照させる予定であったが、科段だけではなくテキストも全部電子化されていることから、オンライン上で科段から註釈本文を表示させる機能を開発し、原典から容易に註釈を参照できるようにすることに変更した。そのため、困難なレイアウトを手作業で行うことに無駄な時間と労力を割く必要がなくなり、本来の研究に専念することができる。 テキスト読解については、かねてから研究代表者が関心を持ってきた「mtshan nyid(定義的特質)、mtshon bya(定義対象)、mtshan gzhi(定義基体)」に関する議論について、サキャパンディタの論理学者の該当の章を翻訳することにしたい。これはカダム派の主張を批判することを目的に書かれているが、しかし議論そのものはカダム派の主張の流れに沿ってなされており、批判的な視点からの要約、批判的議論などの方が理解がしやすいという利点がある。また後代の比較的わかりやすい註釈も豊富であり、この難解なテーマを理解することができると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度のアルバイトの依頼内容については、ほぼ当初の予定通りの成果を出せたが、データ量は当初の見積もりよりも少なく、出来高謝金のために残額が生じた。また予定していた研究・打ち合わせの会議の出張も、諸版の事情で出席者の予定が合わずに最後の一度のみで出張旅費も他の研究会出席と重なったために支出しなかった。 最終年度のアルバイト謝金は、単純なテキスト入力ではなく、科段表の作成・原典との対応箇所の調査など高度な知識を必要とするため、単価を上げることとなる。また、従来のデータについての不備などをできる限り改善するために、アルバイトに依頼することが増える。 最終成果は、印刷ではなくコンピュータ処理によるオンライン研究サイトを構築することにしたので、コンピュータ上でのプログラミングやテキスト処理を多用する必要がある。その用途のための新たにノートパソコンを購入する。
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備考 |
研究代表者が本研究課題および、それの前提となった「初期チベット論理学の形成過程についての基礎研究」(2014~2016年度科学研究費補助金基盤研究(C))に関する情報および研究成果であるテキストデータと横断的検索のできるサイトとして構築。
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