本研究では、チベット人によって著され、現在確認されているダルマキールティ著『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』の注釈をできる限り電子テキストとして入力し、そこから代表的な注釈の詳細な目次である「科段」を抜き出して整理することを目標とした。 『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』はダルマキールティのもっともまとまった体系的な主著であり、初期のチベット論理学は主にこのテキストを研究することによって成立した。初期チベット論理学は主にカダム派のサンプ寺で創始され受け継がれた。それに対してサキャ派のサキャパンディタが批判をし、そのことを受けてその後カダム派のナルタン寺あるいはシャル寺でサキャパンディタの見解も吸収しながら発展した。15世紀初頭にゲルク派が台頭してカダム派を吸収したとき、ツォンカパを継いだダルマリンチェンがゲルク派の立場からそれまでの議論を批判しつつ長大な注釈を書いたが、その後チベットでは『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』の注釈は書かれることなかった。 本研究では、9つの注釈の電子テキストを作成し、それを公開している。そのうち、主要な6つの注釈の科段を取り出している。本来はこれらの科段を容易に対照できるツールを作成する予定であったが、科段そのものの抽出に時間がかかり、それらを対照するツールを作成するまでには至らなかった。これらについては、今後コンピュータによるテキスト処理を駆使してできるだけ早い内に公開できるようにしたい。 本研究の成果は、研究代表者のWebサイト(https://www.tibetan-studies.net/earlytibetanlogic/)において公開している。テキストファイルのみならず、全体からの横断的な語句検索の機能も提供している。
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