研究課題/領域番号 |
17K02222
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
加納 和雄 駒澤大学, 仏教学部, 講師 (00509523)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 梵文写本請来者 / チベット伝存 / ヴィブーティチャンドラ / 越境を示す梵文写本 / 越境梵文写本の類型化 |
研究実績の概要 |
梵文写本の奥書に記される写本所有者名の事例蒐集と分析を行うために、下記の項目について研究を遂行した。 ・ヒマラヤ地域に伝存する梵文写本の中で奥書について、R. Sankrityayana目録、SferraによるG. Tucci撮影写本目録、Luo Zhao目録各所載の転写佚文の蒐集調査の結果を報告した既刊拙稿をもとに追加調査を行うため、写真版を蔵するパトナ・ミュージアムの学芸員およびSankrityayanaのご息嬢Jaya Sankrityayanaと、デリー、インディラガンディー国立芸術センターにおいて、会合し交流をおこなった(2018年3月)。 ・回収した梵文写本所有者名をチベット人名と梵語人名とに分ける作業を遂行した。チベット人名については、(i) インド文字での表記例と、(ii) チベット文字での表記例とが認められるため、その両者に区分した。(i)は奥書所出の定型文「本書は誰某の進物」(deyadharmo 'yam ...)を手掛かりに蒐集し、次の二種に分類した。すなわち(a)チベット語人名のインド文字による音写表記、(b)チベット語人名の梵語訳による表記である。これら(i)(ii)の両事例を整理して各人物を年代と地域および従事したテクストの種類などを手掛かりに同定した。同定にはチベット語史料を用いた。史料の情報精度を明示するため、大蔵経奥書、伝記・仏教史類、史料の新旧など区別し、史的信頼性に段階を設定して整理した。 ・13世紀にインドからチベットに亡命した仏教僧ヴィブーティチャンドラの詩稿について彼の自筆写本を解読し、その成果を『印度学仏教学研究』に発表した。 ・11~15世紀ころの中世インド・チベット仏教世界において、人々の異文化越境のもとに成立した「越境を示す梵文写本」について概観と研究の展望を発表した(『チベット・ヒマラヤ文明の歴史的展開』所収)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当該の研究課題の核心に関わる、13世紀のインドからチベットに亡命したインド仏教僧ヴィブーティチャンドラの個人的な事情を綴った自筆写本の研究を進め、発表することができた。「ヒマラヤ地域における梵文写本の請来者および伝来径路の同定」を目指す本課題を達成するためには、具体的な梵本請来者の個人事情を丁寧に抑えてゆく必要がある。しかしながらそのための、一次資料としてはほとんど残されていない現状において、ヴィブーティチャンドラの自筆写本は稀有な例外であり、その研究をなしえた点は、本課題遂行のうえでも特筆に値する。 ・また写本の成立時にインドとチベットにおける異文化間の越境と融合の足跡を明確に示す梵文写本、「越境を示す梵文写本」について例を収集しタイプに従って類型化しえた点は大きい。 ・その他、『牟尼意趣荘厳』『アームナーヤマンジャリー』『阿毘達磨集論』『パドミニー』について梵文写本研究を継続し、内容理解をより深めえた。
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今後の研究の推進方策 |
インドからチベットへと梵文写本を請来した人物および径路を同定するために、ヴィブーティチャンドラにつづいて、同程度の具体性のある人物について詳しく検討する必要がある。梵文写本奥書を丁寧に洗い出すだけではなく、チベット大蔵経所収の作品における奥書も詳しく検討したい。同時にチベット撰述の歴史資料についても、無論、検討の対象とするが、その史実性については厳しく検討してゆきたい。また、越境を示す梵文写本の各例について、より踏み込んだ考察を進め、歴史的な観点から、当時の人とモノのインド・チベット間の往来と径路とその余波について、解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題の核心とかかわる研究の発表について、海外からの招へい講演という形で公開する機会を得たため、予定額の使用が抑えられたことによる。
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