本年度は、1.公共宗教論をポーランドの政教関係の分析にどのように適用できるかという視点からの理論的検討、2.一次史料に基づく社会主義期から現在までのカトリック教育の変遷に関する実証的研究、3.マイノリティ教育に関する資料を用いた「2」の相対化、の3点を中心に進めた。 1.について、南米、ソ連の事例を扱った公共宗教論に関する文献を収集し、比較の観点から検討を行った。成果は実証研究の成果とあわせ、論文として発表した(『アジアの公共宗教』所収)。また、1979年以降のいわゆる「宗教復興」の時代に先立つ政教関係について再検討し、世俗化のありようの多様性(世俗への消極的適応ではなく、世俗的諸価値を取り込んでの再文脈化や、意識的な政治参加など)について把握し、共著論文としてまとめた(編集作業中。次年度に刊行予定)。また、ソ連の事例については、学術誌に書評として発表した。 その他、立教大学史学会シンポジウム「近代ヨーロッパにおけるナショナリズムとキリスト教」のコメンテータを務め、19世紀末から20世紀初頭を対象とする諸国家の独立とキリスト教の関係性について、「キリスト教の構築性」という観点からコメントを行った。 2.については、家族の手術(9月)、およびCovid-19の影響により、2019年9月、2020年2~3月に予定していた現地調査を断念せざるを得なかったことから、聞き取り調査の進捗には大きな支障が出た。一方で、昨年度までに予定を前倒しして史料収集を行っていたことから、第二バチカン公会議に関する史料を読み進め、1.の共著論文を執筆した。 3.マイノリティ宗教については、カトリック以外の宗教教育の実施状況について文献研究を行うとともに、人権オンブズマンによる調査レポートや欧州人権裁判所の判例等を参照し、1.の論文に反映させた。
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