キルケゴール思想の内閉性と正教の文化回復力の考察をおこなった。より具体的には、1.正教の多元主義や文化回復力についての考察については、多文化他宗教のうちに神の臨在や真実が内在することを認める姿勢を改めて発見した。2.キルケゴール思想の内閉性の考察については、いわば内閉性を破るような内閉性(求道者的性格)であり、原理的には、特定のキリスト教に固執するような姿勢とは異なることを発見した。3.さらに罪責論について、宗教的概念や社会規範的-道徳的概念と、現実の犯罪とその背景には、それぞれ質的に大きな乖離が見られることが見出された。4.北欧の復讐譚について、とりわけバイキング時代のサガに保存されているものの背景として、戦いを肯定する美意識が大きな導因となっているが、世界観としては単一的であり、弾力性に乏しいことが見出された。イヌイットやサーミなど少数先住民族の伝承に保存されている復讐譚は、サガのと異なっていて、和解や許しなどの契機が散在しており、寛容さが見出される。5.完全ではないが、フィールドワーク資料などのデータベース化はかなりの程度、作業を進めることができた。コロナ禍のため公開講座などの開催は実質的にかなりの程度制限された。6.神・霊性・聖性・善悪などの根本的宗教概念が、地域・言語・民族・時代等によって、その意味内容はかなり異なることが見出された。とりわけ神という概念は、きわめて多彩で有り、唯一神や創造神といった概念に局限しないことが重要であることが見出された。7.北欧北方宗教哲学における葛藤の原理を探るうえで、日本の宗教民俗(神道の自然崇拝・神仏混交の修験道・幽霊譚)は、大変参考になった。日本の宗教民俗は、宗教における寛容性や多様性ならびに共生性を研究するうえで、様々なモデルや可能性を孕んでいることが見出された。
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