研究課題/領域番号 |
17K02232
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
一色 哲 帝京科学大学, 医療科学部, 教授 (70299056)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 南島キリスト教史 / 「民衆キリスト教の弧」 / 周縁的伝道知 / 「深化」と「越流」の震源 / 「土着」と「越境性」のはざま / 南島の軍事化と迫害 / 「モノ」と「コト」の収奪 / 内国植民地 |
研究実績の概要 |
本年度は、下記の2回、沖縄島で調査を行った。2017年8月29日から9月5日、2018年2月6日から13日。これは、2018年5月に刊行予定の拙著『南島キリスト教史入門─奄美・沖縄・宮古・八重山の近代と福音主義信仰の交流と越境─』(新教出版社)出版のための調査であった。 上記の調査の過程で、南島では日本本土から南島を通って当時植民地であった台湾へ貫流する伝道者の流れが確認できた。また、同様に朝鮮半島での生活体験や伝道経験のある伝道者が、南島では教会の形成と福音主義信仰の浸潤に重要な役割を果たしたことが明らかになった。 そして、南島一帯に広がっていった信仰の形態は、日本本土のそれとは全く違ったものであるという確信を得た。そのような違いが生じた背景には、南島が日本本土のように近代化の恩恵を受けた地域ではなく、むしろ、帝国日本の内国植民地として支配され、抑圧された地域であったことが要因であると確信するに至った。 このような視点に立つと、帝国日本にとって南島は、植民地であった台湾や朝鮮半島、日本の勢力圏であった旧満州や南洋地域と同様の歴史経験をしている。そのような体験が、キリスト教と出会うことで、そこに個人や「民族」の救済を切に願う福音信仰が広がり、浸潤していった。その意味で、南島のキリスト教信仰は、台湾や朝鮮半島等々の信仰と同質性を持っていることがわかった。 そのような信仰のあり方を「民衆キリスト教」とするならば、南島を中間点として、本土から台湾にかけて「民衆キリスト教の弧」が形成されていたといえる。そして、旧植民地などと同様に帝国日本による抑圧状況下にあって、そのような専横と圧迫に耐え、救済を求めて忍耐強く生きていく知恵を、キリスト教信仰を通じて受け入れるあり方を「周縁的伝道知」とするならば、そのような「知」のあり方こそが、南島キリスト教史の特性であるということを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度は、これまでの成果をまとめて、新しい課題を見出すために多くの機会と時間を費やしたために、本来予定されていた研究計画については、若干の遅れを生じている。しかし、上記のような作業は、これからの研究の進展にとって不可欠のものであったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」で述べた拙著の成果をふまえ、それらの実績を南島の諸教会・キリスト者に広く知ってもらう機会を、これからもちたいと考えている。その上で、2018年度は、これまで積年の課題であった南島のキリスト教会についての悉皆調査を実施したいと考えている。このような調査は、いつごろどのような地域に教会が建てられたか。また、それはどのような契機で行われたのか。その原動力になった信徒・伝道者はどのような人物であったのかを解明するものである。 また、これまでの成果で明らかになりつつある、台湾や朝鮮半島等々の植民地伝道と南島の福音的浸潤の関係について、周辺の研究者をふまえてより考察を深めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はこれまでの成果のまとめを行い、著書を出版するための調査を行ったため、次年度に大幅な繰越をすることになった。この繰越は、次年度に、南島のキリスト教会についての悉皆調査を行うために使用する計画である。具体的には、南島地域には、現在、330余りのキリスト教会があり、それらに対して、まず、書面を通じて、設立年や設立者、設立の経緯、所属教派などを調査する。その上で、いくつかの教会をピックアップして個別の調査を行いたいと考えている。
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