研究課題/領域番号 |
17K02233
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
佐藤 啓介 南山大学, 人文学部, 准教授 (30508528)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 死者 / 宗教哲学 / 記憶論 / 倫理 / 人間の尊厳 / リクール |
研究実績の概要 |
全4年計画の本研究課題のうち2年目にあたる平成30年度は、申請時の計画としては、平成29年度に着手した宗教哲学的な死者倫理の基盤形成を洗練させつつ、それに基づき、その成果を宗教学分野の死者研究(特に場所論や事物論)や記憶論へと接続させることを課題としていた。 平成30年度は、まず死者倫理の基盤形成として、英語圏における分析哲学的な死者論の現状と課題を整理しつつ、そこから立ち上がる死者倫理の可能性を明らかにした。その成果は、論文「〈死者の尊厳〉の根拠―下からの死者倫理の試み」および学会発表「死者への敬意の基礎づけは可能か―死者倫理と宗教哲学」にて発表した。特に、ネーゲル以降の「死の害の哲学」をめぐる先行研究をもとに、死者に、通常の意味での人格とは異なる「象徴的・言説的人格」を認めることによって死者に対して生者と近い意味での「尊厳」を認めるための論理的基盤の一端を明らかにできた。 また、死者倫理の問題と、宗教学的な場所論・事物論とを接続させるための準備的考察として、物質文化論と哲学との接合点をさぐる研究をおこなった。その成果は論文「考古学者が読んだハイデガー―考古学者はそこに何を発掘したのか」として刊行した。物質がもつ痕跡としての性質という主題と、死者が残す痕跡という主題との接点が、死者倫理の考察のうえで重要であることが明らかになった。 同様に、死者倫理と哲学的記憶論の接点を探るため、申請時の計画通り、哲学者リクールの物語的記憶論を参照し、死者に適用可能な人間の尊厳概念の拡張の可能性を探った。その成果は、学会講演「悪しき人間とその尊厳」にてその一端を発表した。カントおよびリクールの議論を手がかりとして、人間の尊厳概念そのものの拡張を目指したものであり、この尊厳概念を死者へと適用させるための手がかりとすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全4年計画の本研究課題のうち2年目にあたる平成30年度は、申請時の計画としては、平成29年度に着手した宗教哲学的な死者倫理の基盤形成を洗練させつつ、それに基づき、その成果を宗教学分野(特に場所論や事物論)や記憶論へと接続させることを課題としていた。 第一に、平成30年度は、前年度からの継続課題として、死者倫理の基盤形成の洗練を目指し、英語圏における分析哲学的な死者論の現状と課題を整理しつつそこから立ち上がる死者倫理の可能性を明らかにした研究成果(論文、学会発表)を公刊した。平成29年度から続けてきた研究が、着実に進展し、成果を挙げていると評価できよう。また、そのなかで、当初は予定になかった日本語圏の哲学領域における死者論の意義や位置づけについても論じることができ、計画よりも研究に広がりが生じることとなった。 第二に、死者倫理の問題と、宗教学的な場所論・事物論とを接続させるための準備的考察を、論文として刊行した。これにより、宗教学的に死者の記憶や痕跡を論じるための理論的基盤を整えることができ、次年度への準備とすることができた。 第三に、死者倫理と哲学的記憶論の接点を探るため、申請時の計画通り、哲学者リクールの物語的記憶論を参照し、学会講演をおこなった。これにより明らかになった「拡張された人間の尊厳」概念を、死者へと適用するための準備が整い、平成31年度の課題へ向かうための準備を整えることができた。 以上より、本研究課題は、当初の計画通りにおおむね順調に進展していると評価できるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画がおおむね順調に進展していることを鑑み、平成31年度は、申請当初の計画通り、宗教学と宗教哲学とを架橋するかたちで、より具体的な死者倫理の構築を目指す。具体的には、宗教学における祭祀・埋葬論を宗教哲学的に捉えなおし、人がなぜ、なんのために死者を敬うのかを、連携協力者らの協力をもとに、哲学的視点から明らかにする。 また、その成果を各種学会や学術雑誌に投稿することを目指す。特に、平成30年度に講演のかたちでのみ発表した人間の尊厳概念の拡張可能性については、早急に論文として公刊することを目指す。
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