研究課題/領域番号 |
17K02246
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水溜 真由美 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (00344531)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 教養 / 戦後派 / 戦争体験 |
研究実績の概要 |
「堀田善衞『歴史』―中国の内戦を描く」(『北海道大学文学研究科紀要』155号、2018年7月)において、敗戦前後の中国体験に基づいて国共内戦を描いた堀田善衞の長編小説『歴史』について論じた。また、これまでに発表した堀田善衞に関する11編の論文を、「乱世を描く試み」、「乱世を生きる作家・芸術家の肖像」、「アジア・アフリカ作家会議へのコミットメント」の3部に整理して加筆修正を行い、新たに書き下ろした序論「戦後派作家としての堀田善衞」を付して書籍化した(『堀田善衞―乱世を生きる』、ナカニシヤ出版、2019年)。さらに、堀田善衞生誕100周年記念講演会 (2018年11月23日に富山大学で開催)において、「橋上の人、路上の人―『堀田善衞 乱世を生きる』の執筆を終えて」のタイトルで講演を行った。これらの研究は、全体として、堀田善衞が乱世の体験を幅広い教養をベースにして作品化したことを明らかにするものである。とりわけそのことは、乱世の体験を、実体験のない歴史的事件に託して描いた小説や、乱世を生きた実在の作家・芸術家に託して描いたエッセイ・評伝などに顕著である(『堀田善衞―乱世を生きる』第Ⅰ部第3~5章、第Ⅱ部1~4章)。他方で、「戦後派作家としての堀田善衞」(『堀田善衞 乱世を生きる』序論)では、堀田善衞を戦後派作家の一人として位置づけた。この論考では、堀田と他の戦後派作家の結びつきや戦後派作家としての共通の世代体験や問題意識を概観した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、平成30年度は、堀田善衞の中国体験について、上海体験に基づく『歴史』などの作品や、南京事件を素材とした『時間』に即して研究を行う予定であったが、この点は、平成29年度末に発表した『時間』論(「堀田善衞『時間』―乱世を描く試み」)と今年度に発表した『歴史』論(「堀田善衞『歴史』―中国の内戦を描く」)、さらに『堀田善衞―乱世を生きる』の第Ⅰ章において概ね達成できた。当初の計画通り、「広場の孤独」、『歴史』、『時間』に関する論考の中で、日本の知識人として侵略戦争に荷担した堀田の責任意識と、上海で目の当たりにした抗日戦争と内戦の下におかれた中国社会の「乱世」的状況が作品の中に描かれていることを詳しく論じることができた。また、中国を舞台とした一連の作品において、マルロー、ヴェルコール、アラン、茅盾などの作家・思想家の作品が参照されていることを明らかにすることができた。なお、当初の計画では、平成31年度中に堀田善衞に関する一連の論考をまとめて書籍化する予定であったが、この点は1年前倒しして実現することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、中村真一郎と武田泰淳について、彼らの知的バックグラウンド(教養、知識人間のネットワーク)に注目しながら、堀田善衞との比較の視点をふまえつつ研究を行いたい。中村真一郎は戦中に『山の樹』、『詩集』などで堀田と接点を持った作家であり、フランス文学、日本の古典文学にまつわる教養を基盤として作家活動を展開した点で堀田と共通点を持つ。武田泰淳は、敗戦前後の上海で堀田と親交を結んだ作家であり、中国文学、ドストエフスキーなどにまつわる教養を基盤とした点、また作品の中で繰り返し「乱世」を描いた点において堀田と共通点を持つ。中村真一郎については、日本の古典文学に関する評論を素材として、サロン的な場の存在に着目しつつ、中村にとっての教養の意味を考えたい。武田泰淳については、「貴族の階段」、『富士』など、「十五年戦争期」を舞台とした作品を素材として、教養を基盤とする「乱世」をめぐる描写について、堀田善衞との比較の視点をふまえて検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍の出版が年度末近くとなり、余裕をもって研究費を使用することができなかった。残金は少額なので今年度の物品費に加算する。
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