2017年度、2018年度は、堀田善衞に関する研究を行い、2018度末に単著『堀田善衞 乱世を生きる』(ナカニシヤ出版)を上梓した。第1部では、乱世的出来事を描いた5点の小説を、第2部では、乱世を生きた4人の作家・芸術家についての評伝、エッセイ、第3部では、1950年代後半以降のアジア・アフリカ作家会議へのコミットメントと第三世界を扱った小説、評論を論じた。 2019年度は、戦後派作家の1人であり、堀田善衞と同時期に上海に滞在した武田泰淳の研究に取り組んだ。「武田泰淳の〈上海もの〉における敗戦と立ち退き」(『国語国文研究』154号、2020年3月)では、〈上海もの〉における敗戦の描かれ方を考察し、「極限状況下における倫理―武田泰淳「ひかりごけ」と大岡昇平『野火』、同『俘虜記』 」(『層 映像と表現』12号、2020年3月)では、武田泰淳の「ひかりごけ」を大岡昇平の『野火』、『俘虜記』と比較しつつ、極限状況下の倫理の描かれ方について論じた。 本研究課題は、堀田善衞を中心に、戦後派作家が、十五年戦争下の非日常的な体験を思想化する上で人文知(教養)が果たした役割を明らかにすることを目的とするものであった。『堀田善衞 乱世を生きる』は、戦後の冷戦期を含めて、「乱世」を生きた堀田善衞の活動の軌跡を辿った著作であるが、第1部、第2部を中心として、堀田の作品が豊かな人文知(教養)に依拠したものであることを、思想形成の過程をふまえて明らかにした。2019年度に発表した2点の武田泰淳についての論文も十五年戦争下の非日常的な体験を扱った作品を論じたものである。とりわけ武田の「ひかりごけ」を大岡昇平の『野火』、『俘虜記』と比較した論考は、戦後派作家である両者にとって、キリスト教や仏教のフレームが極限状況下における体験を描く上で重要な役割を果たしたことを明らかにしている。
|