研究課題/領域番号 |
17K02254
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
伊藤 徹 京都工芸繊維大学, 基盤科学系, 教授 (20193500)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 時間イメージ / 小津安二郎 / 触感 / 是枝裕和 |
研究実績の概要 |
昨年度に続いて、小津安二郎の時間表象を中心に据えて研究を展開した。その際同時代の溝口健二や木下恵介に加え、小津が参考にした海外の映画作品にも目を向け、比較作業を行ない、その一端をミュンヘン大学日本センターで論じた。この講演は論文化されて、主催者E. シュルツ教授によって、同センターが運営する運営するウェッブサイトで公開されている。後者に関しては、例えばウィーン出身のW・フォルストに注目してみたが、偶々来日していたザルツブルク大学N. ハイツィンガー教授の本研究への関心が縁となって、関西学院大学で催されたコロキウムで、発表することができた。一方改めて「時間」という哲学的根本問題を、ハイデガー、さらにカントに遡って考えてみたが、そのことは、時間と空間との区別を再考することにもつながるとともに、2018年7月の代表者主催ワークショップ《空間感覚の変容》を支える基本的な考え方になった。同ワークショップは、ドイツから哲学・芸術史の研究者を招き、国内の若手研究者を交えて議論したもので、その成果は、同名の冊子として公刊されている。空間を時間から切り離すことの精神史的意味という問題も、これによって改めて設定することができた。 小津を中心に進めてきた映画的時空の研究によって、現在活躍中の監督たちにも視野を広げることができた。とくにリヨン第三大学での講演では、是枝裕和の《歩いても歩いても》を取り上げて、現在と過去との関係を考えてみた。時間表象としてのこの関係は、夏目漱石や寺山修司らが彼らの作品で描き出した現在のなかに陥没点のように空く過去の姿にもつながるものであり、これらを論文化に向けて整理した。現在の作家としては他に河瀨直美の作品を、初期のドキュメンタリーまで戻るかたちで考察したが、これはとくに触感の時空間の問題を考える参考に供するためであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
とくに大きな問題は生じていない。むしろ成果発信について、2018年度中に出版の目途をつけることができたのは大きい。引き受けてくれた八王子の堀之内出版の後押しもあり、全体を性格づける序論の執筆を既に始めている。これは最終年度までには何とかしたいと思っていたことなので、進展を加速化させるのはまちがいない。またこれに伴って、当初構想していた計画をさらに内容的に拡充することも見込まれる。具体的には、下記でも記すように1960から70年代にかけて登場するポスト小津安二郎世代の精神史的形象を取り込むことである。さらに代表者の出自であるドイツ哲学の時間論との関係を今一度考えることができたのも、研究全体にとって意義深いと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記研究実績の概要で述べた時間空間に関するカント的二分法についての再考は、申請書で挙げていた岸田劉生の触感と時間表象との関係に関する問題を考えるための一つのステップになり得る。さらに調査し析出した河瀨直美の画面の特徴をこの考察と繋げてみたい。また小津研究の延長線上で、寺山修司までの間に位置する監督たちに注目している。とくに篠田将浩は人脈的にも寺山とつながるため、興味深い。二人の間には、粟津潔や鈴木達夫を始め、さまざまなアーティストたちのつながりが織り込まれている。これらも、1960-70年代の精神史的な意味を探るというかたちで考察に組み込みたいと考えている。計画中で挙げていた夏目漱石と寺山修司についての考察に関しては、本年度発表の論文や講演のなかに部分的に入れてはあるが、著書発刊の計画も具体化してきたので、今後二年間で著書の章として組み込むかたちで仕上げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画書からの30%の減額を前提にして当初から、計画された研究全体を鑑み、研究機関配当研究費によって研究費の補填をはかってきたのが、次年度使用額が生じた理由である。具体的には、物品費は、意図的にほとんどを後者で賄った。したがって繰り越された額は、残りの2年の研究活動を維持・遂行するために使用される予定である。
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