研究課題/領域番号 |
17K02255
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
茶谷 直人 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (00379330)
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研究分担者 |
久山 雄甫 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (70723378)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 魂 / 精神 / プシュケー / プネウマ / ガイスト / アリストテレス / ゲーテ |
研究実績の概要 |
本研究のテーマは「魂」「精神」「身体」からなる「人間三元論」の系譜について、とりわけギリシア語の「プネウマ」からドイツ語の「ガイスト」にいたる概念の連なりに着目しながら、哲学、思想史、文学という多角的観点から考察することで、その解明を目指すものである。 このテーマのもと本年度は研究期間の初年度として、アリストテレスとゲーテにおける人間三元論の基本的内実を見定めるという基礎的作業を、茶谷と久山のそれぞれが、随時共同討議を進めながら行った。まず茶谷は、一連の研究の基礎的作業として、アリストテレスにおける魂(プシュケー)概念の多義性と統一性のあり方について、生物学、倫理学、美学という様々な文脈においてテクストの精査作業を遂行した。そしてその一端として、「アリストテレス芸術論における快と自然美──「模倣されたもの」の受容による快をめぐって」(『神戸大学文学部紀要』45号)において、魂が芸術作品を受容する際に生起する快をめぐるアリストテレスの議論が、有機体の目的論的存在構造についてのアリストテレスの理論を基礎として展開されていることを示した。次に久山は、二点について研究を進めた。第一にゲーテ晩年の思想詩「一と全」における「世界魂(Weltseele)」および「世界ガイスト(Weltgeist)」の用法について、当時のドイツ学術界における古典古代研究(特にストア派研究)を参照して分析し、これら二つの概念がはっきりと区別されえないばかりか、そもそも明確な意味内容を持たず、むしろ言語化不可能なものを示唆するにとどまっているという解釈を提示した。第二に初期ゲーテの神学論文、演劇作品、自然科学論文を横断的に調査し、「ヌース」と対比して「プネウマ」(特にキリスト教的聖霊)を重視するゲーテの神学論文での立場が、彼の後の文学創作だけでなく自然科学研究にまで影響を与えている可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、研究期間の初年度として、研究遂行者(茶谷・久山)のそれぞれが関連テクストを精読し問題を考察するという基礎的段階であった。茶谷と久山のそれぞれはこの作業を概ね順調に遂行し、一連の研究の途中経過として一定の成果を論文刊行などの形で行うことが叶った。また、両者は、職場を共にするという地の利を活かし、随時意見交換と討議を進めることもできた。以上から、当年度においては、翌年度以降の発展的研究へ向けた地ならしをおおむね順調に進めることができたと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は、前年度に行ったアリストテレス研究とゲーテ研究を発展的に継続させしつつ、他分野の研究者を交えた共同討議を行うことで研究対象領域を派生的に拡大させ、それぞれの研究成果を突き合わせた比較検討の段階に移る。 茶谷は特に平成30年度に関していえば、プシュケーとプネウマの内実と関係をめぐる考察を、アリストテレスにおける多様な学的場面をめぐって引き続き進めつつ、その作業を古代ギリシア全体に拡げる。 例えば、気息的な心理解と対峙する仕方でプシュケーの不滅を論証しようとするプラトンの魂論がその対象となる。これにより、より広い哲学・思想史視野での問題把握を目指したい。一方久山は、昨年度までの研究を通じて、ゲーテのガイスト概念およびその古代哲学との関連性をより根本的に理解するには、特にゲーテの思考様式にひそむ時間論と存在論をしっかり考察する必要があると考えるにいたった。換言すれば、時間論や存在論のレベルにまで遡ることで、領域横断的な議論をする土台が形成されると思われる。よって平成30年度にはこの課題と重点的に取り組み、平成31-32年度の研究の足場を固める予定である。 平成30年度においてはこれらの作業について、各自単独で進めることと並行して、他分野の研究者も交えた共同討議を行いながら多角的・横断的に問題を明確化したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた書籍の入荷状況の関係で若干の繰越金が発生した。次年度において入荷完了次第使用する見込みである。
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