本研究は、<魂><精神><身体>からなる「人間三元論」の系譜について、「プネウマ」から「ガイスト」にいたる概念の連なりに着目しつつ多角的に考察するも のである。 本年度は前年度に引き続き、茶谷と久山が、古代ギリシアにおける魂論研究と、ドイツ文学・思想におけるガイスト・ゼーレ研究をそれぞれ発展的 に継続させた。それにより茶谷は、1)プラトンが「国家」において(理想国家論を提示する前段階として)提示する「豚の国」論が、平和の継続や食生活の維持といった持続可能性の観点から読み直すことができ、魂と正義の関係について新たな視座を提供するものであることを示した。また、2)アリストテレスの倫理学が、人間の魂のあり方についての記述的な観点から展開された側面が強いことを示した。一方久山は、特にゲーテのガイスト概念に雰囲気的な含意があったことを論証し、国内外での複数の口頭発表(日本語、ドイツ語、英語)を行ったほか、現在も引き続き、ゲーテの思想・文学が現代の雰囲気論の背景をなすことを論じるドイツ語論文を執筆している(2024年度公刊予定)。なお、そのひな型として一般読者向けの文章「雰囲気学をひらく」を『現代思想』で発表した。 なお、研究機関全体を通じて、茶谷と久山それぞれの専門の観点から研究を深化することができただけではなく、テーマに関連する国内の著名研究者を招聘してワークショップを相当回開催することができた。このことは、テーマそのものが相当の奥行きと広がりを有し、なおかつ長いスパンにわたる思想史的な観点への目配りが求められるものであるだけに、極めて意義深いものであった。今後は、こうした招聘者を主たる共著者とした、本課題がテーマの著作の刊行を目指したいと考えている。
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