研究課題/領域番号 |
17K02258
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
後藤 正英 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (60447985)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メンデルスゾーン / 啓蒙主義 / 国際研究交流 / スピノザ / ドイツ古典哲学 / カント / ユダヤ教 / 急進的啓蒙主義 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、国際シンポジウム開催のための準備作業において大きな進展が見られた。今回、シンポジウムに招聘するのは、バルイラン大のシュムエル・ファイナー氏とニューヨーク大のミヒャ・ゴットリープ氏である。ファイナー氏はユダヤ啓蒙主義研究に関する世界的に著名な歴史学者であり、ゴットリープ氏はメンデルスゾーン研究に関する中堅世代を代表する研究者である。本来は最終年度の平成31年度にシンポジウムを開催する予定であったが、先方の都合があり、平成30年度に前倒しすることになった。 本年度の研究発表としては、7月に佐賀大にて科研の公開研究会を開催し、藤田尚志氏(九州産業大学)と中山佳子氏(名古屋大学)を招聘して、カントとフーコーの啓蒙理解に関する議論をおこなった。私の報告では、進歩史観に対する肯定的評価がカントの啓蒙理解の特色であり、この点がメンデルスゾーンとの違いをなしていることを指摘した。さらに、9月の日本宗教学会のパネルでは、カントと近しい関係にあったメンデルスゾーンの弟子世代のラディカルな啓蒙主義者たちについて言及した。 本年度は、いくつかの雑誌論文で、モデレート啓蒙主義の特質について寛容思想史の観点から考察した。その際に特に参照したのはドイツの政治哲学者フォアストの議論である。彼は、様々な寛容概念を整理する中で、マジョリティがマイノリティを許容する関係にとどまる垂直的な寛容と、相互に平等な立場で承認しあう水平的な寛容について指摘している。この区分をジョナサン・イスラエルの啓蒙理解と連関させるなら、寛容に関する後者の立場を体現しうるのはラディカルな啓蒙主義のみであることになる。しかし、通常、モデレートな啓蒙主義にカテゴライズされるメンデルスゾーンは、マジョリティが上位の立場から寛容を行使してくることを批判しており、単純な二分法では整理できないところがある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において最も重要な役割を担っている国際シンポウムの開催の見通しをつけることができた点で、おおむね順調に進展しているものと判断できる。本来、このシンポジウムは最終年度の平成31年度に開催する予定であったが、招聘予定の海外研究者の都合により、一年前倒しで平成30年度に開催することになった。国際シンポジウムは、バルイラン大学のファイナー氏とニューヨーク大のゴットリープ氏を招聘し、東京大学と同志社大学で開催する予定である。開催にあたっては、市川裕教授と小野文生准教授の協力を得ている。 研究内容面でも、近年のラディカル啓蒙主義(急進的啓蒙主義)の研究状況についての把握が進んだ。ジョナサン・イスラエルは、ラディカル啓蒙主義の特徴として世俗性を強調しており、宗教批判と政治批判を一体のものとして考えている。しかし、この点については別の意見をもつ研究者も多い。このような近年の研究状況を踏まえたうえで、モーゼス・メンデルスゾーンとその周辺の人物たちを再考するのが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、7月に二人の研究者を海外から招聘して国際シンポジウムを開催する。シンポジウムの開催にあたっては、市川裕、小野文生、向井直己、細見和之、ギブソン松井佳子の各氏に強力を依頼している。シンポジウムの成果については、京都ユダヤ思想学会の学会誌等に掲載する予定である。秋には、ドイツで文献調査を行い、デッサウ・メンデルスゾーン協会のウルブリヒ氏と研究上の意見交換を行う。
平成31年度は、過去2年間の研究成果を集約しつつ、モデレート啓蒙主義の歴史的実像を明らかにすることで、啓蒙と宗教の両立可能性をめぐる問いに一定の結論を導き出したい。具体的な研究の進め方としては、渡米し、文献調査を行い、ニューヨーク大のセミナーないしはユダヤ学関連学会で口頭発表を行う。最終的には、モデレート啓蒙主義の歴史的実像を明らかにし、啓蒙と宗教の両立可能性をめぐる問いについて一定の回答を与えたい。研究成果については、日本ユダヤ学会ないしは日本18世紀学会で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、平成31年度に海外から研究者を2名招聘する国際シンポジウムを開催する予定であったため、平成31年度にそのための費用を計上していた、しかし、招聘研究者の都合でシンポジウムを平成30年度の7月に実施することになった。そのため、平成30年度の前半期にシンポジウムの関連費用を確保しておく必要が生じたので、今回、前倒しの支払い請求を依頼することになった。 今回の請求分は平成29年度の残高として残し、平成30年度の増額分として使用する予定である。
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