本年度は、2018年度にイスラエルとアメリカから2名の研究者(ファイナー氏、ゴットリープ氏)を招聘して開催した国際シンポジウムの講演原稿の日本語訳を京都ユダヤ思想学会と日本ユダヤ学会の学会誌に掲載することができた。ユダヤ啓蒙思想に関する最新の研究成果を日本語で読むことができる資料を提供できたことは、日本の啓蒙思想研究にとって裨益するところが大きいものと考える。さらに、昨年の招聘の際に招聘研究者との面識を得た若手研究者たちは、その後も両氏との交流を深めており、本科研費は、国際共同研究のネットワーク強化に貢献することができたといえる。 国外では、ゴットリープ氏の支援のもとに、11月にニューヨーク大学にて、日本におけるドイツ・ユダヤ思想の受容に関する研究会を開催した。北海学園大学の佐藤貴史氏と私が登壇した。ニューヨークに滞在中には、レオ・ベック研究所やニューヨーク公共図書館のユダヤ部門を訪問し、現地のディレクターや司書の方のサポートを受けながら、文献収集を進めることができた。コロンビア大学では、ファイナー氏と並ぶユダヤ啓蒙思想の著名な研究者であるソーキン氏の講演を聴講する機会も得ることができた。 国内では、二つの学会での研究発表を通して、数ある啓蒙思想家の中でのメンデルスゾーンの独自性について明らかにした。日本宗教学会の個人研究発表では、ラーヴァターからの改宗要求に対するメンデルスゾーンの発言を分析することで、メンデルスゾーンが、それぞれの宗教が持つ偏見に対する相互寛容を強調している点に注目した。日本倫理学会の個人研究発表では、進歩思想に対するメンデルスゾーンの批判について考察した。メンデルスゾーンは、個々人の人生における道徳の向上は存在するが、人類全体についての道徳の進歩は存在しないと主張した。この主張は、カントとの著しい相違点を形成している。
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