本研究は、芸術における「独創性」の概念と、人間の能力を同時代の科学により解明しようとした近代の能力論、人間論について思想史的アプローチから再検討 を行い、「独創性」に潜在する人間の孤立や排除といった今日的課題を明らかにして、現代の芸術における個人と社会の関係、および「天才・異才」という芸術 的才能、独創的才能の育成について考えることを目的とする。 研究1年目にあたる2017年度は、イギリスに渡航してイギリスの優生学における芸術的才能の位置づけに関する資料収集を行なった。この資料収集では当初計画にある天才論、芸術論に関する資料の入手に加え、19-20世紀にかけての障害と芸術をめぐる最新の研究動向についての文献情報を得るなど予想以上の成果を得た。 研究2年目にあたる2018年度は、特別支援学校における芸術教育の実態と障害児の芸術をめぐる進路選択に関する教職員アンケートの分析結果の公開、イギリスの優生学における芸術的才能の位置づけ、優生学運動およびロマン派の芸術論の日本的受容、日本の学校教育における「天才・異才」、「独創性」、「個性」をめぐる言説について資料収集と分析を行い、学会にて成果を報告した。 研究の最終年度にあたる2019年度は、2018年度に行った学会報告の要旨論文公開、イギリスに渡航し、T.ウェッジウッドの天才教育論および障害に関する思想についての資料収集、「天才・異才」の育成と優生学に関する資料の収集を行った。また、これまでに行った資料の分析を進めて3年間の研究を統合し、今後19世紀から20世紀にかけてのイギリスの人口調整論と教育思想の関係、イギリス優生学協会における芸術的才能の位置づけ、および日本の学校教育における「天才・異才」 および「障害児」のとらえ方と、それに対する優生学の影響について論文公開を予定している。
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