研究課題/領域番号 |
17K02261
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
佐藤 貴史 北海学園大学, 人文学部, 教授 (70445138)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ユダヤ学 / 歴史主義 / 文献学 / 改革派ユダヤ教 / アブラハム・ガイガー / 聖書学 / ユダヤ神学部 / 反ユダヤ主義 |
研究実績の概要 |
今年度はレオポルト・ツンツとイマヌエル・ヴォルフに加えて、アブラハム・ガイガーのユダヤ学理解を、当時のユダヤ教がおかれていたコンテクストを考慮しながら調査した。 昨年度はY. H. イェルシャルミやM. ブーバーといった20世紀のユダヤ人思想家による19世紀ユダヤ学批判を考察し、彼らの批判によって覆い隠された部分を明らかにすることで、ツンツとヴォルフの思想の特質を明らかにする視点を獲得した。 昨年度の研究を踏まえて、今年度は第一に複雑な状況におかれていた19世紀ドイツのユダヤ教を、(新)正統派、改革派、保守派、特定の教派から距離をおいた立場の4つに大きく分けて、当時の宗教的コンテクストを整理した。 第二に、ツンツやヴォルフは歴史学的・文献学的視点に基づいたユダヤ教文献やユダヤ史の解明に力を注いでおり、彼らの立場は当時のユダヤ学の典型とも言えるが、その内実をさらに明確にする必要性を感じた。それゆえ、今年度はツンツとヴォルフの思想を分析すると同時に、改革派のアブラハム・ガイガーの思想も考察し、ツンツならびにヴォルフと比較することで彼らの思想的特質を明らかにしようとした。 昨年度の研究成果が20世紀の視点からツンツとヴォルフの思想を分析しようとするものならば、今年度は19世紀の宗教的コンテクストのなかでツンツとヴォルフの思想を考察するものである。ツンツとヴォルフの立場は、ガイガーと比べれば同時代のユダヤ教改革に対する視点が弱く、またキリスト教が持っていた反ユダヤ主義感情をユダヤ学を通じて批判するという視点は圧倒的にガイガーの方が強いことがわかった。ユダヤ学のなかには、客観的なユダヤ教理解を目指すツンツやヴォルフのような立場と学問の成果を通じて同時代のユダヤ教を改革したいという立場が並存していたのであり、この違いを踏まえることが重要であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我が国において19世紀ユダヤ学の研究は本格的に開始されたとはいまだ言えない状況である。それゆえ、諸外国の研究動向や諸概念の正確な把握が求められている。今年度は(1)19世紀ドイツのユダヤ教がおかれていた教派的状況を整理し、(2)改革派のガイガーの考察を通じてツンツとヴォルフの思想的特質を理解することができた。それゆえ、こうした状況を踏まえて自己評価を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でユダヤ学の分析枠組み、コンテクストの明確化、同時代のユダヤ人思想家の関係などが明らかになった。今後はこれらの研究成果を総合して、ユダヤ学と歴史意識の関係について論文を書く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の後半は大学のサバティカル制度を利用して、ニューヨーク大学を中心に19世紀ドイツのユダヤ学の資料収集に従事した。その結果、日本にいない期間が発生し、使用する機会も減ったので残額が生じた。残額については主として次年度の物品費(関連図書の購入)に組み込み、必要資料の購入費用として活用するよう計画している。
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備考 |
(書評)佐藤貴史「フランツ・ローゼンツヴァイク、村岡晋一・田中直美編訳『新しい思考』(法政大学出版局、2019年)「ローゼンツヴァイクの実践報告――彼自身の手によるドイツ・ユダヤ思想史の試み」」(『図書新聞』3436号、2020年2月22日) (書評)佐藤貴史「丸山 空大『フランツ・ローゼンツヴァイク――生と啓示の哲学 』」(『宗教哲学研究』第37号、昭和堂、2020年3月)
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