研究課題/領域番号 |
17K02262
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
早川 雅子 目白大学, 社会学部, 教授 (70212305)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 孝 / 幕末維新期 / 江戸町方住民 / 人別帳 / 民衆道徳 / 主体形成 / 民衆教化政策 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
四谷地区三町(四谷塩町一丁目、麹町十二丁目、四谷伝馬町新一丁目)人別帳データベース分析により、幕末維新期の江戸町方住民における孝行の諸形態、高齢者の実態、主体形成の過程を明らかにした。 (1)孝行の諸形態では、社会的階層に応じて孝の実現形態は多様であり、孝とは孝養に限らず、都市で生き抜くために必要とした生き方の総体と捉えるべきだと論じた。 (2)高齢者の実態では、高齢者のライフコース、世帯形態の移行や世帯構成員の動向に焦点を当て、高齢期安泰のための方策を考察した。①家督譲渡・世代交代のタイミングとして、60歳前後が一つの基準になる、②〈家族・親族による親族扶養の自己完結〉〈扶養のための自助努力〉という意識が浸透し、社会保障制度の貧困の結果、高齢期の安泰は経済力への依存度が高く、都市下層の高齢者やその家族は窮民化の危殆に瀕していたことを、具体的事例を挙げて論証した。 (3) 家の存続継承と孝養との二つの観点から、幕末維新期の江戸町方住民における孝の実態とそこに表れる民衆意識を考察した。①孝は、①民衆教化政策の本質が〈家族・親族による孝養の自己完結〉であり、幕藩体制下のイデオロギー的性格を有すると同時に、②自らの生命の連続性を確認し、存在の基底を確認しようとする意識、すなわち自己意識が形成される場でもあった。幕末維新期の都市住民における孝は、近世イデオロギー的性格と近代個人主義的ともいえる要素のと二面性を併せもつと結論できる。 (4) 幕末維新期の孝における〈家族による孝養の自己完結〉というイデオロギーは、都市下層においては、親の孝養によって子世代が窮乏、あるいは未婚のまま高齢化するなどの社会的問題の要因にもなった。しかし、このイデオロギーは、民衆教化政策のみならず、舌耕文芸や娯楽などを通しても、民衆に浸透していき、人道として認識されるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果を著書としてまとめる作業、人別帳データベースWeb公開に向けたデザイン設計に遅れがみられるものの、幕末維新期における高齢者の実態と孝行の諸形態、および孝行を通した主体形成の過程等については、順調に成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
孝行・孝道徳にみる都市家族の主体性の探究 を継続する。 (1)孝行における主体性の探求では、絵本資料の分析を開始する。絵本分析の方法に関しては、関連文献を通して知識を集積しいる。絵本を資料にして、ライフイベントの描写、登場人物の構図、絵解き文などを読み解くことによって、子どもにおける孝意識の形成過程、絵本という文芸が思想形成に果たす機能を考察する。 (2)恩の論理と孝道徳の関連を考察する。育児書・教訓科往来物において、親子間の情愛や血縁の意義が説かれる文脈を検討する。孝行を逼る根拠とされる父母の恩、親子間の情愛が説かれる文脈を検討し、父母の恩が了解される論理構造を明らかにする。孝が父母の孝養に収斂される契機、孝がかかえる問題点を提起する。 (3)民衆、特に都市下層の思想形成において舌耕文芸や演芸など、書物ではなく、‘声’‘身体’が果たす機能に着目しており、舌耕文芸に関する先行研究や資料の講読に着手する。 (4)平成29年度からの研究成果をまとめ、孝道徳における都市家族の主体性をテーマにした報告書をまとめ、都市家族における近代的主体性の可能性と限界を展望する。
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次年度使用額が生じた理由 |
30年度中に、江戸町方人別帳データベースWeb公開を計画していた。しかし、人別帳異動記録の異動年月日において、閏年のデータ処理にミスがあり、データ修正とデータチェックを行なった。その結果、Webデザイン設計も遅れ、30年度中に当該予算を使用することができなかった。 31年4月時点で、データチェックをほぼ完了し、Web設計を業者に依頼するところまで作業が進行している。31年度7月を目途に、Web公開を実施する計画であり、当該予算を使用する。
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