研究課題/領域番号 |
17K02262
|
研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
早川 雅子 目白大学, 社会学部, 教授 (70212305)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 人別帳データベース / 都市下層 / 老い / 看取り / 孝行 / 高齢期対策 / 幕末維新 / 四谷塩町一丁目 |
研究実績の概要 |
幕末維新期の都市下層における高齢期対策を、「四谷塩町一丁目人別帳データベース」分析を通して、孝行と結婚という二つの観点から考察した。 調査対象は、四谷塩町一丁目在住店借階層のうち、夫婦どちらかの年齢が51歳以上の有配偶世帯である。都市下層の孝行を検証する観点は、(1)親の最期を看取る〈看取り〉、(2)看取る者が将来を展望できる〈看取る者の保証〉の2点である。〈看取り〉実現要件には、①看取り担い手の年齢、②世帯の居住期間、③世帯規模、④養子取り、⑤親の引取り、⑥看取りの完遂の6点、〈看取る者の保証〉実現要件には、⑦世代交代、⑧結婚の2点を設定した。調査世帯数は95世帯、該当世帯が人別帳に現れた年度から、世帯の動向を追跡調査し、孝行の実態を検証した。検証の結果、可能性も含めて〈看取り〉を実現した世帯は6世帯、その6世帯中1世帯のみは〈看取る者の保証〉を確認することができた。 都市下層にとって、親を介護し最期を看取るという孝行は、看取る側の将来と引き替えにするほどの相当な負担であったといえる。都市下層のなかには、自らの世帯を築き、自力で高齢期対策を講ずる世帯も存在した。しかし、高齢期対策の実践には、資力に加え、強靱な意志や上昇志向が必要である。多くの都市下層においては、何もしない・何もできないままに高齢期が過ぎていったと考えられる。 データ分析では、高齢男性と壮年女性との「年の差結婚」件数が注目される。夫婦の年齢差10歳以上の世帯は、調査対象95世帯の26%超、25世帯を数える。寡婦や壮年期の単身女性にとって、高齢男性との結婚は、老夫の介護や看取りと引き替えにした生活保障であり、女手という自身の性に依存する生活手段であった。親の看取りを終え壮年を迎えた子どもの救済策として、男性の養子と並んで、女性の結婚を挙げることができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.人別帳データベース分析は、幕末維新期の都市住民における高齢期対策という観点から、高齢化した夫婦家族世帯の行末、高齢者ケアの担い手、親世代自身による高齢化対策、世帯構成員全員による高齢期対策などを、社会的階層の相違に着目しながら検討することができた。都市住民家族が都市を生き抜く戦略という観点から人別帳の記録を読み解き、孝行の諸形態を具体的に開示し、幕末維新期における「老い」という新しい研究テーマを提起することができた。 2.人別帳データベースWeb公開は、東京都新宿区四谷地区のフィールドワーク成果を組み込む予定であったが、新型コロナウィルス感染症の流行拡大によって都内での現場調査が困難になり、十分な成果を得ることができなかった。 3.人別帳データベース分析の成果を、①「幕末維新期の都市住民」、②「都市住民における孝行の諸形態」という二つのテーマでまとめている。幕末維新期の都市住民における孝行の実態を、文献だけではなく、市井の住民の動きという新しい観点を取り入れ、その特質を活かして制作、2021年度中の完成を目指している。
|
今後の研究の推進方策 |
1.研究成果のとりまとめ:幕末維新期の都市住民における孝行の諸形態を具体的に開示し、その現実と問題点を提示する。都市上中階層における通俗道徳や孝道徳の浸透状況、都市下層の困窮、孝行の非現実性を対照的に論じる構想である。 2.孝道徳普及の要因に関する研究:都市下層において孝行の実践は困難が多いにもかかわらず、孝道徳や通俗道徳が普及していく要因に関する研究に着手する。講談、雑誌など、民衆が手に取る所謂「低俗文学」を資料とする。ライフイベントの描写、登場人物の構図、絵解き文などを読解し、民衆に受け入れられた要因を解明する。 3.幕末維新期における「老い」に関する研究:2の「低俗文学」読解では、この時期の民衆の「老い」に関する認識も考察の観点にする。 4.人別帳データベースWeb公開:新型コロナウィルス感染症の流行状況次第では、2019年度までの調査成果の掲載に限定し、2021年度中の公開を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由1.人別帳データベースWeb公開が遅れ、Web公開用の予算を使用することができなかった。Webページ制作では、東京都新宿区四谷地区のフィールドワーク成果を組み込む予定であったが、新型コロナウィルス感染症流行拡大により、東京都新宿区四谷地区のフィールドワークが不可能になった。 理由2.新型コロナウィルス感染症流行拡大による遠隔授業の実施で、授業準備や学生指導などに多くのエフォートが割かれ、研究に集中することが困難であった。 使用計画:①新型コロナウィルス感染症流行次第では、フィールドワークを中止、Webページ構成を練り直し、Web制作と公開に使用する。②幕末維新期から明治20年代に刊行された雑誌、文献資料を収集する。
|