研究の最終年度に当たる2021年度は、今までに収集した資料の整理、読解を前年度に引き続き行い、過去の研究のまとめを行った。8月から10月にかけては勤務先の研究費でドイツへ出張し、ドイツ国立図書館、バイエルン学術アカデミー資料館、バイエルン州立図書館を訪問した。そして研究のまとめとなる刊行予定の著書で引用した文献の出典の確認等を行い、著書へ掲載予定の画像の選抜を行い、掲載の許可を得た。10月9日には、日本の古典文献学者の集まりである第20回「フィロロギカ」研究集会において、「20 世紀ドイツの人文主義者とナチズム その抵抗・傍観・協力の類型をめぐる考察」というテーマで、オンライン形式による発表を行った。12月9日には、本研究のまとめとなる『スパルタを夢見た第三帝国 20世紀ドイツの人文主義』を、講談社より刊行できた。 本研究の成果は、以下のとおりである。W. イェーガー、R. ハルダー、K. v. フリッツ、K. ツィークラーという主に4人の人文主義者について、ナチズムとの関わりの検討を行った。さらにナチズムによる古典古代の受容を代表するものとして、そのスパルタ受容を検討した。19世紀初期のドイツ新人文主義においては、古代ギリシアの規範の立ち上げ、その規範の歴史学的-批判的な研究による吟味という両者の融合が目指されたが、ナチズムとの関わりを通して両者の系譜は分解し、前者の系譜(古代ギリシアの規範の立ち上げ)を継ぐ「第三の人文主義」はナチズムへの傍観ないしは協調(イェーガーとハルダー)、後者の系譜(歴史学的-批判的な研究による吟味)はナチズムへの抵抗(フリッツとツィークラー)に傾いたことが明らかとなった。その際ドイツの人文主義者の多くは、古代ギリシアの規範内容が、同時代のナチズムによるスパルタ崇拝のように非人間的なものであっても、その規範を守ることを重視したと考えられる。
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