研究課題/領域番号 |
17K02266
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
合田 正人 明治大学, 文学部, 専任教授 (60170445)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シャルル・ルヌヴィエ / 19世紀フランス哲学 / 新カント主義 / 間歇性 / 無限 / 共和国 / 社会主義 / マルセル・プルースト |
研究実績の概要 |
①2018年度はまずシャルル・ルヌヴィエの国際的研究者であるロラン・フェディ教授(ストラスブール大学)を7月6日にストラスブール近郊の村まで訪ね、長時間にわたって、19世紀フランスの新カント主義の文脈のなかでルヌヴィエをどう位置づけるかについて話し合うことができた。フェディ教授はちょうどフランスの新カント主義をめぐる大著を出版したばかりであり、ルヌヴィエとレオン・ブランシュヴィックとの関係についても議論を深めることができた。更に、ドイツにおける新カント主義者ヘルマン・コーエンとの関係にも話題が及び、何よりも「微分」「無限小」をめぐるルヌヴィエとコーエンとの対立が問題となった。 フェディ教授には、2020年度秋(9月)に日本で開催予定の19世紀フランス哲学をめぐるシンポジウム(日仏哲学会)への何らかの形での参加を約束して頂くとともに、2019年度秋にパリでルヌヴィエ・シンポジムが開催予定であることを伺った。 ②そのシンポジウムの主催者のひとりイザベル・メックネム教授からシンポジウムへの参加を求められ、11月15-16日にパリの高等師範学校で開催されルヌヴィエ・シンポジムに参加し、16日には「プルーストとルヌヴィエと――間歇性の観念をめぐって」という研究発表をフランス語で行った。同発表はアルマタン社から刊行される論集に収録される予定である。ルヌヴィエをめぐるシンポジウムが開催されるのはおそらく初めてのことで、元国民教育省大臣であるヴァンサン・ペイヤン氏などフランスの発表者たちの発表から分かったのは、まさに現下の政治的危機の中で共和主義者ルヌヴィエの闘いが注目されているということだった。この点を身近に感じることができたのは大きな収穫であった。ルヌヴィエの『マニュエル・レピュブリカン』を再度読み込み、愛と正義という二つの軸が彼の社会主義的共和国論を支えていることを強く感じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①2018年度までの研究を通じて、「間歇性」(intermittence)を中心としてルヌヴィエの哲学の総体が構成されていることを明らかにすることができた。2018年度はこの観点がルヌヴィエの政治的、歴史的考察ても維持されていることを発見することができたように思う。これは本研究にとって大きな一歩であり、ルヌヴィエによるカテゴリー表の改変と、社会主義的革命論とを結びつけることが可能となった。 ②ルヌヴィエ研究の国際的権威であるロラン・フェディ教授(ストラスブール大学)から直接話を伺うことができたのも大きな収穫であった。また、この点では、ステファン・スイエ氏、ヴァンサン・ペイヤン氏、イザベル・メックネム氏などフランス内外のルヌヴィエ研究者とシンポジウム「正しい共和国とは何か?」で出会い、彼らの多彩な発表を聴くことができた。特に、「ルヌヴィエにとって共和国とは何か」という問題をめぐる緊張感溢れる討論はルヌヴィエのアクチュアリティを強く印象づけるものであった。このシンポジムへの参加は研究開始時には予定されていなかったものだけに貴重な参加となった。また、このシンポジウムの記録がアルマタン社から出版されることになったのも大変幸運であった。 ③文献読解の面では、特に『マニュエル・レピュブリカン』第二版のかなり詳細な読解を行うことができた。①でも記したが、マルクスをも含む19世紀社会主義思想のなかでルヌヴィエが占める位置は想像以上に大きく、特に彼のいう「食人哲学」はマルクスのプロレタリート論の先駆だったのではないかとの仮説をたてるに至った。 以上、文献読解の面でも、研究者交流の前でも、研究成果発表の面でも順調に研究計画を遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
①今後の研究方針としては、これまでに明らかにした「間歇性」「模倣」「感染」「不連続性」などの哲学的観念と、ルヌヴィエが生涯をかけて追及した共和国の理念、それを支える正義と愛の理論を結びつけて総合することを何よりも目指したい。 ②その成果発表の場所としては、a)日仏哲学会の秋季研究大会での19世紀哲学をめぐるシンポジウム、b)その前夜祭として企画された国際シンポジウム「19世紀フランスにおける生命の哲学と科学」、c)ベルクソン『意識に直接与えられたものについての試論』を主題とした共同研究(科学研究費補助金、基盤研究(B))を考えている。 ③これらの機会を活かしながら、以下のような流れで3年間の研究の暫定的な締め括りとしたい。i)新カント主義者と呼ばれるルヌヴィエ哲学の認識論的側面についての報告者のこれまでの理解をいま一度整理し、ルヌヴィエによって提示された新しい「カテゴリー表」の意義を明確化する。それをラヴェッソン、ルキエらの思想と比較するとともに、ビシャなどの生理学的考察とも関連づける。加えて、ベルクソンとの関連はもとより、ヘルマン・コーエンとの併行関係を独自の視点としてこれまで以上に強調する。ii)第二に、ピエール・ルルー、モーゼス・ヘスらから始まる社会主義運動のなかにルヌヴィエという「1848年人」を位置づけ、マルクス主義の展開とのつながりも探る。iii)ベルクソンとジョルジュ・ソレル、シャルル・ペギーとの関連、ヘルマン・コーエンと社会主義、シオニズムとの関係をも勘案しながら、i)とii)で得られた見地を総合する。iv)最後に、意想外に思われるかもしれないが、ジル・ドゥルーズのなかでルヌヴィエとコーエンが占める位置を示し、ルヌヴィエの言う「共和制」のアクチュアリテ、その来たるべきものとしての性格を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は本研究の最終年度にあたり、特に9月6-7日に予定されているシンポジウムでの発表に向けてルヌヴィエ研究を速やかに進める必要がある。また、日本では入手困難な文献調査をパリの国立図書館などで行う必要もある。すでに5月1日から6日まで第一回の調査を終えたところであるが、再度調査を行うことが不可欠である。一方で、2018年度はフェディ教授訪問、ルヌヴィエ・シンポジウム参加と、研究にって大きな展開をなすことができた。このような事情から、残金を2019年度に残し、少しでも多く活用できるようにした次第である。
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