本課題研究の最終年度にあたる2019年度は、ドイツ新カント派の旗頭ヘルマン・コーエンとシャルル・ルヌヴィエとの関連をめぐるこれまでの研究成果を二本の論文にまとめ、共著『ドゥルーズの21世紀』(河出書房新社)ならびに京都ユダヤ思想学会誌『京都ユダヤ思想』10号に掲載することができた。 また、日仏哲学会の2019年度秋季大会(9月7日、於学習院大学)で開催されたシンポジウム「19世紀フランス哲学の再検討」では、基調講演者として、「「死せる」哲学者シャルル・ルヌヴィエの波紋――ルヌヴィエとジャンケレヴィッチ再考」と題した発表を行い、ルヌヴィエがドイツ新カント派のみならず、フランスでベルクソンを継承したジャンケレヴィッチやドゥルーズにも少なからざる影響を与えていることを示そうとした。と同時に、ルヌヴィエの共和主義のための闘いが、20世紀の全体主義対する闘いにいわば息を吹き込んでいたことをも示唆することができた。 最終年度の最も大きな成果と言ってよいのは、2020年3月第一週にフランスはモンペリエのモンペリエ第3大学(ポール・ヴァレリー大学)の図書館を訪れ、司書のサンドラ・ブラション(Sandra Blachon)氏の指導のもと、同図書館にあるFonds CHarles Renouvierを閲覧できたことである。このコレクションはルヌヴィエの自筆草稿を多数含んでおり、ルヌヴィエ研究には不可欠な資料体である。ただ、いまだ全く整理されておらず、今回は、ニーチェや宗教をめぐるルヌヴィエの読書ノートを参照することができたにすぎないが、今後これらの草稿を整理し、読解することが報告者の課題となった。また、同コレクションに含まれた未読のルヌヴィエ研究にも触れることができた。一方では最新科学、他方では共和国という政治的理念に関して、ルヌヴィエの存在が重要性を増していることを実感できた。
|