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2017 年度 実施状況報告書

フェティシズムの思想史――19世紀西洋における「所有する主体」の誕生と身体

研究課題

研究課題/領域番号 17K02268
研究機関早稲田大学

研究代表者

橋本 一径  早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70581552)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワードフェティシズム / 写真史 / 所有 / 表象文化論 / 身体論 / 思想史
研究実績の概要

本研究の目的の一つは、写真とフェティシズムの本質的な関係を解明することである。これまで一般的にフェティッシュ的と呼ばれてきた写真とは、個人の欲望の対象としての性的なイメージを被写体とするものだった。しかし本研究はフェティシズムを、集合的なアニミズムを含む、より広い概念として捉えている。かつて人類学が異文化の中に認めた呪物崇拝は、西洋においては、モノに対する個人的な欲望の固着すなわち(狭義の)フェティシズムとしてのみ存続を許されてきた。本研究が明らかにしようとしているのは、写真とはそのような西洋において例外的に存在することになった集合的なフェティシズムの対象であるということである。本年度はその準備として、写真における狭義のフェティシズムと広義のフェティシズムの文節を試みる考察を、国際シンポジウムにおいて発表した。この考察は平成30年度中に論文として公表の予定である。
フェティシズムの誕生と「所有」概念の成立との関係を明らかにすることも、本研究の目的である。フェティシズムやアニミズムが西洋において否定的な概念として用いられたのは、モノに対して「所有物」以上の価値を認めることができなくなったためであると考えられる。あらゆるモノが「所有物」とされる中で、「身体」は、所有には還元できない唯一のモノであると言える。このような「身体」のステータスを、「病気」の概念を手がかりに考察する論考を発表した。
本研究との関わりの深い、法制史や身体論についてのフランス語の著作を翻訳刊行した(アラン・シュピオ『法的人間』〔共訳〕、ミサ、ヌーヴェル編『ドーピングの哲学』)。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

長期休暇を利用したフランスにおける資料調査においては、主として写真史に関わる調査を行い、その成果の一部は、国際シンポジウムにおいてすでに発表しているほか、平成30年度中に執筆を終える、勁草書房より刊行の単著に盛り込まれる予定である。
本研究のもう一つの主軸である「身体」と「所有」の関係をめぐる考察に関しては、医学雑誌『Cancer Board Square』に連載中の論考の形で、3本の論文を刊行した。その過程で「カニバリズム」という新たな主題を発見したことは、本研究にとっての大きな進展である。この新たな主題については平成30年度中に共編著を刊行の予定である。
今年度は本研究とも関わりの深い2冊の学術書の翻訳を刊行することもできた。アラン・シュピオ『法的人間』(嵩さやか氏との共訳、勁草書房)は、「身体」や「所有」といった概念と法との関わりを問う本研究にとって重要な視点を与えてくれる著作である。ミサ/ヌーヴェル編『ドーピングの哲学』(新曜社)は、ドーピングを身体論的な観点から考察した論集であり、本研究の身体論的な展開にも有意義な著作である。

今後の研究の推進方策

今年度中に執筆を終える予定の、写真史に関する単著の執筆が、本研究の今後の推進を担う重要な要素である。すでに発表している論考に、新たな考察を付け加えて、長期休暇を利用しながら完成を目指す。
長期休暇を利用したフランスでの調査・執筆を、昨年度に引き続き今年度も行う予定である。例年利用しているフランス国立図書館に加えて、コレージュ・ド・フランスの共同研究室を利用できることになっており、滞在中の拠点として研究推進に活用したい。
本研究の研究代表者は国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))への応募を考えており、そのための打合せを、フランス滞在中にミシェル・ポワヴェール・パリ第1大学教授と行う予定である。同基金に採択された暁には、本研究を基課題としつつ、その成果を国際的な共同研究の中で発展させることになる。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (4件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (3件)

  • [雑誌論文] 人間はいつから病気になったのか――こころとからだの思想史[第8回] 身体――「資源」と「食物」の間で2018

    • 著者名/発表者名
      橋本一径
    • 雑誌名

      Cancer Board Square

      巻: 4 ページ: 164-167

  • [雑誌論文] 人間はいつから病気になったのか――こころとからだの思想史[第6回] 「痛み」と「病気」の乖離」2017

    • 著者名/発表者名
      橋本一径
    • 雑誌名

      Cancer Board Square

      巻: 3 ページ: 190-194

  • [雑誌論文] Debunking, ou le nouvel enjeu de la retouche photographique a l'ere numerique2017

    • 著者名/発表者名
      Kazumichi HASHIMOTO
    • 雑誌名

      Rilas Journal

      巻: 5 ページ: 416-421

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 人間はいつから病気になったのか――こころとからだの思想史[第7回] 「動物には痛みがない」2017

    • 著者名/発表者名
      橋本一径
    • 雑誌名

      Cancer Board Square

      巻: 3 ページ: 152-156

  • [学会発表] Un double fetichisme dans la photographie2017

    • 著者名/発表者名
      Kazumichi HASHIMOTO
    • 学会等名
      国際シンポジウム「写真とフェティシズム」
    • 国際学会 / 招待講演
  • [図書] 法的人間 ホモ・ジュリディクス2018

    • 著者名/発表者名
      アラン・シュピオ(著)、橋本一径、嵩さやか(翻訳)
    • 総ページ数
      347
    • 出版者
      勁草書房
    • ISBN
      978-4-326-45112-8
  • [図書] エドワード・ヤン 再考/再見2017

    • 著者名/発表者名
      フィルムアート社(編)、橋本一径(分担執筆)
    • 総ページ数
      460
    • 出版者
      フィルムアート社
    • ISBN
      978-4-8459-1641-2
  • [図書] ドーピングの哲学2017

    • 著者名/発表者名
      ジャン=ノエル・ミサ、パスカル・ヌーヴェル(編)、橋本一径(翻訳)
    • 総ページ数
      323
    • 出版者
      新曜社
    • ISBN
      978-4-7885-1546-8

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公開日: 2018-12-17  

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