研究最終年度となる2019年度の研究実績は、主として以下の2点に整理することができる。 ①フランスの法思想家であるコレージュ・ド・フランスのアラン・シュピオ教授の著作『フィラデルフィアの精神』を翻訳刊行し、本研究からの助成を得て、シュピオ教授およびパリ第1大学の法学者ミュリエル・ファーブル=マニャン教授の日本における講演とワークショップを組織した。フェティシズム概念の誕生と、「所有者」としての法的主体の成立の関係に焦点を合わせた本研究にとって、法学的な知見はきわめて重要であり、シュピオ教授の著書の翻訳と解説の執筆、そして両教授との議論を通じて、研究を深化させることができた。日仏会館で行われたシュピオ教授の講演は、研究代表者によって翻訳され、『日仏文化』第89号に収録されている。 ②写真とフェティシズムの本質的な関係を解明し、西洋における写真の歴史を思想史の中に位置づけ直すことは、本研究の主軸のひとつである。2019年度は、写真雑誌『photographers' gallery press』の4年ぶりの刊行に尽力し、同誌に翻訳1本と論考2本を掲載した。翻訳として掲載したのは、パルカル・ブランシャールらの著による「野蛮の発明」であり、万国博覧会や写真メディアがいかにして帝国主義的な「野蛮」の表象を形成してきたのかを、批判的にたどった考察である。論考「フェティシズムとアニミズムの間にある写真」は、とりわけ本研究と関わりの深い考察であり、ポンピドゥー・センターで行った講演を収録したものである。もう一つの論考「「何もしない男」の系譜としての写真史」は、かつては「何もしていない」として芸術家から区別されてきた写真家が、やがて「何もしない」からこそ芸術家扱いされるようになる系譜をたどり直した。
|