本研究は近代以降の音楽研究では等閑視されてきた、近世日本で展開した楽律をめぐる音楽研究の史脈を掘り起こし、それらが実践からかけ離れた机上の議論にとどまるものではなく、多彩に展開していた具体像を提示したことに主な意義がある。また、日本音楽史の研究は概して西洋音楽を導入した近代以降と、今日に謂う伝統音楽が展開していた近世までとが分断されがちで、近世・近代の連続性の側面は見過ごされる傾向にある。西洋音楽受容の意義を正当に評価するにあたっては、思想や音楽研究を含めた近世の音楽文化の在り方を実証的に正確に把握するべく務めることが不可欠であるが、本研究の成果はその方面にも一定の意義があるものと考える。
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