研究課題/領域番号 |
17K02289
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
津上 英輔 成城大学, 文芸学部, 教授 (80197657)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メーイ,ジローラモ |
研究実績の概要 |
メーイの音楽観の全容を解明するため,「自然から与えられた音楽」を参照点としながら,彼の理論の古代性と近代性を選り分けるのが,平成29年度の研究の課題であった.そのため,2015年の私の著書『メーイのアリストテレース『詩学』解釈とオペラの誕生』で概要を見たアリストテレース『詩学』の「カタルシス」の解釈を再度取り上げてその内容を見極め,思想的源泉を突き止める作業を行なった. その結果,メーイは悲劇のカタルシス概念を,彼の目から見て飛躍のない一貫した理論として説明するため,古代医学のヒッポクラテース・ガレーノス的四体液説を援用していることが,まず確かめられた.すなわち,身体において,四体液のほどよい混合から逸脱した余分な部分を瀉血のようなしかたで排出し,もとの調和状態を回復させるのと同様に,精神においても憐れみや恐れのような有害部分を排出して精神を浄化する働き,それが悲劇のカタルシスであるとメーイは説明するのである. 次に,Weinbergの古典的研究(1961)を参照しながら,同時代におけるメーイのカタルシス解釈の位置を測った.すると,メーイの僚友であったLorenzo Giacominiの演説から,この説が当時彼のオリジナルであると受け取られていたことが初めて判明した.つまりメーイはアリストテレースや古代医学の説を部品としながら,全体として新たな説を構築しているのである.同じ傾向は,彼の芸術体系論にも見られ(これについては,『美学』252号に掲載される予定の論文で詳しく論じた),彼の思想の全体的性格の一端であると考えられる. この結果は,悲劇のカタルシスを音楽的なそれと同一視する彼において,音楽説の一部でもある.したがって,悲劇のカタルシスが四体液という「自然」から説明できるなら,それこそが「自然から与えられた音楽」の一面である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度の研究の当初の予定は,メーイの考える音楽の大本としての「自然」概念の源泉を,キケローらのラテン語文書に探ることであった.しかし実際の研究では,それに代えてメーイのカタルシス解釈を扱い,源泉として探索したのは,医学者ヒッポクラテースとガレーノスのギリシャ語文献であり,また同時代のイタリア語文献であった.これは一見,方針転換のようであるが,彼の思想傾向を明らかにし,音楽観の全容を解明するという目的には合致しており,彼の音楽観をより大きな脈絡の中に置いて解釈することに,むしろ積極的に貢献すると考えられるので,「概ね順調」とする.
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今後の研究の推進方策 |
まず,平成29年度の研究で積み残した課題である,「自然」と「慣習」の概念のラテン語文献における源泉の探索を進める.昨年までの私は,その対象として,キケローを代表とする散文作家に限って考えていたが,その後,彼の詩への造詣の深さに気付くに及び,詩人にも目を配らなければならないと考え始めている.その際,近年公開されたDigital Loeb Classical Libraryが大きな助けになるものと考えている. その上で,彼のラテン語著作が,内容ごと古典作家に縛られているのではないかという疑問に答えるため,彼のイタリア語著作との比較を行なう. そのような形式的観点からの検討を踏まえ,彼の音楽観の全容を解明すべく,計画に沿って研究を進める.
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