研究実績の概要 |
本年度の研究では,ジローラモ・メーイの作とされ,ヴァティカン図書館蔵の手書きの1葉に伝えられる次の8行のラテン語エピグラム「フュッリスについて(De Phyllide)」を取り上げた. Aurea sidereos cum forte reduceret ignes, /Prospiciens dulci lumine cuncta Venus; Efferri fato cum sensit Phÿllida acerbo /Functam, et pallenti fronde uirere comas; Parcere non lacrimis potuit, non ore querelis / His mestam duris se abstinuisse dea, Militia, hem, re a nostra, et dulci à coniuge Phylli, /O decus innuptarum, abstulit atra dies. この詩は,メーイにおける諸思想項目間をつなぐ補助線の役を果たし,思想の全体像をつかむ助けとなる.すなわち,彼は古代旋法理論と悲劇カタルシスの解釈において,古典文献を最大限尊重しつつも,そこに欠けた環を古代と近代の理論で補い,時には独自の観察も加えて,それぞれを同時代人にわかりやすい結論にまとめ上げているが,その内容は古代の音楽と悲劇における情動の現働態に関わる点,詩の情動描写に通じる.このように,彼が学問と詩作の両方において人間性の探求を目指したのだとすれば,そのすぐ隣に,そうして得られた洞察を広く同時代の知的世界に問う志向があっても不思議はない.彼のわかりやすい研究結果の目指すところはこれであったと,「フュッリスについて」の分析から結論することができる.
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