研究課題/領域番号 |
17K02289
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
津上 英輔 成城大学, 文芸学部, 教授 (80197657)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | G. メーイ / アリストテレース / 『詩学』 |
研究実績の概要 |
ジローラモ・メーイ(1519-1584)の古代音楽像は『古代旋法論』で集中的に表明された.その像には,音楽と悲劇はかくあれかし,という彼の理想が込められているという見通しのもと,2019年度の研究では,①彼の悲劇カタルシス解釈と,②1片の文書の解釈に注力した. ①アリストテレース『詩学』に,悲劇の目的として一度だけ言及されるkatharsisの概念は,悲劇,ひいては詩,さらに拡張して芸術一般の目的という位置づけの大きさに反して,この書の他の箇所に何の説明も見出されず,その不均衡が後世の解釈者たちの頭を悩ませてきた.アリストテレースは現存する『詩学』の中で,ほぼ専ら悲劇の筋構成について述べるが,メーイは『古代旋法論』第4巻でそれを補うかのように,悲劇の上演,そしてそれが観客に及ぼす効果について考察する.この内容を要約すれば,悲劇は演じ,歌い,躍られることによって,単なる演技を超えた現示ともいうべきものの迫真性を有するということである.ここには,伝統的四体液説に,同種療法的解釈を組み合わせるという,19世紀のJ. Bernaysを思わせる理論が提唱されていることが,解釈の結果明らかになった. ②ヴァティカン図書館,バルベリーニ文庫の1巻に,De Phyllideと題するラテン語エピグラムとソフォクレース『アンティゴネー』よりと題された3行のギリシャ語引用を収めた1葉がある(Vat. Barb. lat. 1819, fol. 93).この2つの文書については,何の説明も外的証拠もなく,また先行研究では検討の対象とされることがなかったが,文書の記載内容から,この詩がメーイの文人としての能力を示し,引用が古典学者としての達成を証すものであることが判明した.ソフォクレース引用では,写本記述の文法的齟齬を一挙に解決する,現代にも通用する改変提案(emendation)が見られる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年3月に実施するはずであったパリ出張を,新型コロナウィルスの影響で中止せざるを得なかったため,パリのフランス国立図書館での調査ができず,その分の研究が滞る結果となった.
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今後の研究の推進方策 |
2020年秋または2021年3月に,パリ出張を行ない,国立図書館所蔵のメーイ関係文書の調査を行なう.しかし2020年に入ってからの研究で急遽浮上したメーイのギリシャ記譜法研究との関係で,ローマ,ヴェネーツィア,ナポリの図書館での調査を先に行なうことになるかもしれない.いずれにしても,新型コロナウィルスの状況を踏まえて慎重に判断したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に予定していたパリ出張を,新型コロナウィルスの影響で取りやめたため,出張費を繰り越すことになった. 2020年秋か2021年3月に再度試みるつもりである.
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