研究課題/領域番号 |
17K02294
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
磯 水絵 二松學舍大學, 文学部, 教授 (60130407)
櫻井 利佳 上野学園大学, 日本音楽史研究所, 研究員 (80622571)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 楽琵琶 / 独奏曲 / 古楽譜 / 唐楽 / 三秘曲 / 中原有安 / 三五要録 / 三五中録 |
研究実績の概要 |
本研究は3つの分掌に分かれ調査研究を継続している。すなわち、【A.諸本研究】、【B.人物・史実】、【C.奏法・楽理】である。各分掌における研究実績は以下のとおり。 【A.諸本研究(担当:磯水絵、櫻井利佳、神田邦彦)】 昨年に引き続き『胡琴教録』の諸本を中心に研究を進めた。『胡琴教録』の諸本には真名本(下巻のみ)と仮名本(上下巻)とがあるが、神田邦彦は両者を比較検討して、『胡琴教録』の原態は真名本であり、仮名本は真名本を仮名書きに直そうとしたものであることを定例研究会において発表した。『胡琴教録』の本文校訂、注釈、内容理解を進める上で意義ある発表になったと考える。今後論文化の予定である。なお、年度末近く、京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター准教授、武内由美子氏の好意により、イギリスに渡っている以下の『胡琴教録』の写真を入手できた。大英博物館蔵平松家旧蔵本(①上下巻の仮名本 2-9/10、②上下巻の仮名本 2-17/18、③下巻の真名本 2-19)、④英国ケンブリッジ大学図書館蔵菊亭旧蔵『胡琴教録』上巻の仮名本(143)。 【B.人物・史実(担当:櫻井利佳、磯水絵、神田邦彦)】 昨年度行った『胡琴教録』の各登場人物についての先行研究調査、索引作成を元に、更に研究を進めた。諸楽書(『群書類従』『続群書類従』両管絃部、『図書寮叢刊』伏見宮旧蔵楽書集成 第一~三巻)の人物索引作成を、学生・大学院生のアルバイトの協力を得て、作業工程全体の約半分を終えた。 【C.奏法・楽理(担当:ネルソン、根本千聡)】 『三五要録』などの琵琶譜の分析を通して、本文の解釈に関わって具体的な成果が着実に挙がってきているが、いまだ論文発表する段階に至っていない。なお、ネルソンは、楽琵琶奏者の中村かほる氏の協力のもと、琵琶秘曲について国内学会で報告・実演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の核となる『胡琴教録』の輪読作業には、予想したよりも時間がかかっている。主たる原因は、諸本の現存状況にある。上記の通り、上巻は原態を留めないと思われる仮名本の本文しか伝わっておらず、本文に難解なところが多いため、解釈作業を容易に進めることができない。現時点では上巻の校訂本文作成は7割ほど済んでいる。なお、上記の通り、各分掌における個別の調査研究は順調に進んでいるため、研究計画の大勢に重大な支障は生じないものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
停滞している上巻の輪読作業を続ける。また引き続き、A、B、Cの作業を遂行する。並行して、解題、翻刻、注釈、現代語訳、年表、人物略伝、楽譜資料、解説などの執筆作業を続ける。 【A.諸本研究】 引き続き、諸本調査を行う。順次、未確認資料の実見調査を行っていく。また、真名本系統の精読を行う。神田(2006)を基に、猪熊信男旧蔵本、岩瀬文庫蔵本、新しく入手できた平松家旧蔵本など、真名本系統の諸本を精読し、輪読の成果もふまえて『胡琴教録』下巻の校訂本文を作成する。 【B.人物・史実】 琵琶の流派についての検証を続ける。『胡琴教録』の琵琶伝承について、琵琶の二大流派である桂流、西流とどのような関係にあるのか、検討していく。また、『胡琴教録』中の記事と史実との整合性の確認を行う。主要な出来事については年表にまとめ、一覧できるようにする。 【C.奏法・楽理】 琵琶の実演による検証実験を行う。検証の際には琵琶の演奏に精通した専門家に協力を依頼する。 これらの成果を踏まえ、2019年12月、説話文学会・仏教文学会合同例会のシンポジウムで、「音楽と文学─『胡琴教録』の作者は鴨長明か─」(仮)の題で次の諸問題を取り上げ、プロジェクト構成メンバー全員に2名程を加え、発表する予定である。①『胡琴教録』の諸本と作者の問題、②その成立した背景にある、琵琶の二大流は(桂流と西流)、③『源氏物語』に描かれた音楽場面を端緒として『胡琴教録』に見られる曲種、調絃法や秘曲、それにまつわる説話、また流派による奏法の違い、以上の3点である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外における研究成果発表の場を得ていないことや、『胡琴教録』諸本調査の国内史料調査がさらに必要なことから、外国旅費の予算を国内旅費に回し、研究分担者との話し合いの結果、各分掌にほぼ均等に分けることとした。なお、その外の繰越金額は原則として用途を変えずにそのまま平成30年度から31年度に繰り越すこととする。
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