研究課題/領域番号 |
17K02301
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉田 寛 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (40431879)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 没入 / イマージョン / 錯覚 / イリュージョン / 仮想現実 / バーチャルリアリティ / 感性 / ゲーム |
研究実績の概要 |
本研究課題は、仮想現実(バーチャルリアリティ)や拡張現実(オーグメンテッド・リアリティ)の分野で近年、急速にその重要性が高まっている「没入(イマージョン)」の概念を美学的観点から再検討することを目的とする。社会的関心や産業的重要性が高いにもかかわらず、没入の概念は依然として定義や外延が曖昧であり、学術用語としての評価も定まっていない。そこで本研究課題では、錯覚(イリュージョン)や虚構(フィクション)など、美学や感性哲学の分野で長い歴史と多くの研究蓄積をもつ概念や主題との連関の中でこの概念を再検討することで、今日「没入」 と呼ばれている感性的経験を的確に理解し、評価するための理論的枠組みを構築する。 三年計画のうち初年度である平成29年度には、本研究課題の土台を構築すべく、没入概念そのものの内実と輪郭を理論的に確定する作業を行った。具体的には、コンピュータ科学や工学、認知科学などの学問領域、また仮想現実とゲーム研究の分野で蓄積されてきた研究文献を調査することによって、没入概念の内実と輪郭を明確にし、仮想現実研究の中で展開してきた実在感(プレゼンス)概念と対照させつつ、両者の関係と位置づけを明らかにした。 とりわけ、デジタルゲームにおける「ゲーム内ゲーム」の現象に着目し、そこに見られるメタ構造を分析した。 その研究成果の一部は、「ゲーム内ゲーム──ボーナスステージからバーチャルアーカイブへ」という題目のもと、コペンハーゲンIT大学コンピュータゲーム研究センター主催のゲーム研究セミナーで報告された。 さらに、市民向け公開講座にて「デジタルゲームの感性学──イリュージョンと没入」の講演を行い、インタビュー記事「ビデオゲームの進化に人間の感性の本質を探る」を刊行するなど、研究成果を社会・国民に向けて発信する試みも行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題はおおむね順調に進展している。 とくにゲーム研究の世界的拠点であるコペンハーゲンIT大学コンピュータゲーム研究センターを訪問し、世界の第一線にいる研究者と交流して、最新の研究知見を得ることができたため、現代のメディア環境と技術的状況に即したかたちで、没入概念の考察を深めることができた。 また、錯覚や仮想現実に関する研究の過程や成果の社会的発信とアウトリーチ活動についても、当初予定よりも早く、初年度である今年度から着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も当初の研究計画通りに推進される。 すなわち、初年度に構築した理論的輪郭に基づき、第二年度には、没入概念の美学的考察を行う。「錯覚」および「虚構」という二つの軸を設定し、錯覚と没入の関係については美術研究や視覚文化論を、虚構と没入の関係については詩学や文学理論を、それぞれ参照しながら研究を進める予定である。また最終年度には、それまで二年間の成果に基づき、没入概念の美学理論を体系的に構築する。具体的には、注意や集中に関する認知心理学の研究蓄積をも踏まえて、メディアや表現形式、芸術ジャンルごとの多様性を組み込んだかたちで、没入概念の美学理論を体系的に構築する。
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