研究課題/領域番号 |
17K02302
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
仲間 裕子 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70268150)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ドイツ・モダニズム / ドイツの100年展(ベルリン) / フーゴ・フォン・チューディ / 近代美術論 / 絵画・工芸・建築 / 美術館とパトロン |
研究実績の概要 |
今年度はベルリン、ミュンヘン、ドレスデンで調査を行い、関連資料を収集し、ドイツの研究者との研究交流および意見交換を行った(第1回目の8月27日~9月11日および第2回目の3月24日から3月30日における、ベルリンの国立中央アーカイヴ、国立芸術図書館、フンボルト大学付属図書館、ミュンヘン中央美術史研究所、ドレスデン国立美術館での資料調査と資料収集)。20世紀初頭のベルリンにおけるドイツのモダニズムの発展において、重要な契機のひとつと考える旧国立美術館開催の「ドイツ100年展」(1906)であるが、とくに企画した館長のフーゴ・フォン・チューディの芸術の近代性に主眼を置いている。旧国立美術館関連の論文を所収した『ベルリン国立美術館群年報』とアーカイヴでのチューディや「100年展」の協力者のハンブルク美術館館長のアルフリート・リヒトヴァルク、またチューディの相談者でもあったヴィルヘルム・フリードリヒ美術館(現在ボーデ美術館)館長ヴィルヘルム・ボーデなどのドキュメントや書簡・写真を主に調査した。その結果、チューディがドイツ印象派の画家、マックス・リーバーマンやユリアス・マイアー=グレーフェの近代主義観に影響を受けただけでなく、とくにパリ万国博覧会を通して日本美術や工芸品への関心が見受けられことが判明した。1899年にプロイセンの文化相に宛てた、モネの《アルジャントイユの家並み》(1873)を含む美術館受け入れ希望作品のなかに、京都の西村總三郎(現在は千總)の刺繍屏風画があり、同年に所蔵の許可が下りている。工芸博物館ではなく、国立美術館での日本の工芸品の獲得は、当時きわめて珍しい例であった。また、この作品群を含めて、当時、旧国立美術館の近代美術作品はその多くが主にユダヤ人系パトロンたちによって寄贈されているが、その歴史的背景についても、主要な資料を上記の図書館や研究所で収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は主に資料収集や資料を通しての研究の深化を目指したが、フーゴ・フォン・チューディの日本への関心は想定したよりも強く、またこの関心は旧国立美術館館長就任以前からであったことがわかった。チューディは1878年のパリ万博に出品された日本の工芸品について小論の「日本の芸術」(1878)を執筆しているだけでなく、1908年には調査のために日本に滞在している。チューディは、国家の文化装置として皇帝派の権力が強かった旧国立美術館にフランス近代美術を多く展示したことで知られるが、1896年の美術館就任直後にパリのデュラン・リュエル画廊から獲得したマネの代表作の一点《室内庭園にて》(1879)は、そもそも欧米の美術館が最初に購入したマネの作品であった。このように積極的にフランスを中心とした海外の近代美術を収集したチューディが美術館の所蔵として企てた日本の刺繍風景画は、同時に所蔵許可を請求したモネ、シニャック、ハンス・フォン・マレースの作品とともに近代美術の一環として考えていたことが次の文章からも察することができる。「親密で自然主義的な扱いによる、最善なる装飾的効果をもつこの刺繍絵画は、日本美術の特質を表す例であり、国立美術館のコレクションに加えることはまったく正当な考えである」。今年度は、ドイツだけでなく、京都での刺繍屏風の調査を行うなど、チューディのモダニズムを日本との関連から考察した。 なお、以上の調査と並行して31年度に開催する国際シンポジウムについて、現在の旧国立美術館館長のラルフ・グライス氏と2回にわたって協議し、また、今後継続して日独の研究者の交流の実施を両者で確認した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年5月25日に立命館大学で科研のテーマである「ドイツ・モダニズムの黎明期とベルリン」について国際シンポジウムを開催する。このシンポジウムの主旨は20世紀初期にベルリンで開花したドイツ・モダニズムの歴史的展開の再検討である。焦点となるのは、ドイツ近代美術の擁護と発展のため、ベルリンの旧国立美術館で1906年に開催された「ドイツの100年展」で、フランス近代美術との競合、ナショナリズムとの葛藤のなかで、館長フーゴ・フォン・チューディ、画家マックス・リーバーマン、そして美術史家ユリウス・マイアー=グレーフェ等の協力によって企画された国家事業としての展覧会である。この画期的な美術展を実現させた大都市ベルリンに目を向け、美術館、美術・工芸・建築、理論、パトロンやコレクターの貢献等から、ドイツ独特のモダニズムを考える。ベルリン、旧国立美術館館長ラルフ・グライス氏、ドレスデン国立美術館シニアキュレーター、ペトラ・クールマン=ホディック氏、また日本のドイツ美術、美学、現代ドイツ史専門とする佐藤直樹(東京藝術大学)、尾関幸(東京学芸大学)、三木順子(京都工芸繊維大学)、池田祐子(京都国立美術館)、高橋秀寿(立命館大学)、仲間裕子(立命館大学)の発表によって、このテーマの活発な議論と国際的な成果を期待している。 シンポの成果について整理を行ない、さらに考察を深めるため、ドイツ、ベルリンとミュンヘンのそれぞれの関連図書館、研究所を中心に調査を継続する。この成果は『国際言語文化』(立命館大学国際言語文化研究所紀要)に特集として掲載する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末のベルリンでの調査期間が予定していたよりも短くなったため、その余った予算を次年度の国際シンポジウム開催の諸費に充てることになった。
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