本研究は、ベルリン、国立美術館館長のフーゴ・フォン・チューディ(在1896-1909)が企画・組織し、ドイツ美術の近代化を進めた1906年の国家事業「ドイツ美術の100年展」の背景にあるモダニズムの黎明期に注目し、従来のドイツ近代美術史研究に欠けていた展覧会・パトロンの視点を導入するものである。20世紀への転換期では、1898年にベルリン分離派を設立したマックス・リーバーマンや『近代美術発展史』(1904年)を著したユリウス・マイアー=グレーフェを中心に、国際的な潮流に影響を受けた芸術家だけでなく、美術館、パトロン等の多領域の活動によってドイツ・モダニズムが展開した。ベルリン芸術図書館の資料、国立美術館付属中央アーカイヴの書簡などによってその内容が明らかになった。 また、ジャポニズムの波がモダニズムの台頭と同時に押し寄せ、チューディも1899年に、例外的に美術館に工芸品の「刺繍屏風」を獲得している。現在は消失した作品だが、制作・販売元が京都の西村總左衛門商店(現:千總)であることが判明した。当商店はパリ万博にも数回出品し、1900年には刺繍絵画《水中群禽図》(1899年)が大賞を得ている。チューディの京都滞在の書簡もベルリンで見つかった。 国際シンポジウム「ドイツ・モダニズムの黎明期とベルリン」を立命館大学で開催し、ラルフ・グライス(ベルリン旧国立美術館館長)、ペトラ・クールマン=ホディック(ドレスデン国立美術館シニア・キュレーター)、高橋秀寿(立命館大学)、池田祐子(京都国立近代美術館)、三木順子(京都工芸繊維大学)、尾関幸(東京学芸大学)、佐藤直樹(東京藝術大学)各氏と研究代表者が、美術、美術館、パトロン、ジャポニズム等の多領域からの報告を行った。この成果は『言語文化研究』(第31巻4号、立命館大学国際言語文化研究所、2020年)に特集として掲載された。
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