本研究の核となる「九州日日新聞」の調査(明治21~45年)が2017年度にほぼ完了、2018年度には資料一覧の発表が完結し、最終年度にあたる2019年度には、それらの資料を分析し明らかになった点について、論文とレクチャーコンサートという形で発表した。 特に、民間楽隊の成立と普及に関しては、楽隊成立の社会的背景や経済的支援体制、県下の楽隊成立の変遷、他県からの楽隊招聘、楽隊の種類(市町村を代表する楽隊、学校楽隊、商店楽隊、芸妓楽隊、孤児院楽隊他)等の実態を明らかにした。新聞には、雑誌や書籍等の他の資料には記録が残されていない小規模の楽隊に関する記事が散見され、例えば芸妓楽隊や商店楽隊の定説を補填する新たな事実を提示することができた。また、広告等に描かれた楽隊のイラストにも着目し、当時の人々にとっての「楽隊」のイメージ像にも言及した。 また、新聞調査では、学校での音楽教育関連の記事が散見され、音楽教師の多岐に渡る活動の実態が明らかになった。犬童球渓や高濱孝一、入江好治郎等、師範学校や高等女学校の音楽教師が、勤務校での音楽教育のみならず、県下の学校教員への音楽指導や地域の文化向上に貢献し、同時に作詞や作曲、教科書や書籍の執筆を行う等の活動を精力的に行い、なおかつ全国の同種の教員と連携し活動していた実態が浮かび上がった。 さらに、これまで研究対象とされてこなかった長﨑次郎(1843-1913)について、レクチャーコンサートという形で発表を行った。明治7年に書店を開業した長﨑は、教育用品店や楽器店を相次いで創設し(現長崎書店)、熊本の文化と教育に多大な影響を及ぼした人物である。出版業も行っていたことが判明し、《清正公唱歌》《熊本城》等、県や市の要請で作られた唱歌等も出版していた。さらに、同店の明治期から昭和初期の帳簿、着荷綴、在庫管理簿等を整理し、デジタル資料化する作業も進めた。
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