研究課題/領域番号 |
17K02309
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
八木 春生 筑波大学, 芸術系, 教授 (90261792)
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研究分担者 |
小澤 正人 成城大学, 文芸学部, 教授 (00257205)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 敦煌莫高窟 / 唐時代前期諸窟 / 塑像 / 西安唐時代前期造像 / 敦煌莫高窟第220窟 / 敦煌莫高窟第328窟 / 敦煌莫高窟第320窟 |
研究実績の概要 |
本年度は敦煌莫高窟の唐時代前期諸窟の造像についての研究を中心に行った。莫高窟の唐時代前期造像は、清時代に造られたものが少なくなく、またそうでなくても多くは後世の補修を受け、補彩のため造像のどの部分がオリジナルであるかを判断しにくい。そのためこの時期の造像研究は、あまり進んでいないのが現状である。敦煌莫高窟における初唐時期(唐前期第1期諸窟、第2期諸窟)と盛唐時期(唐前期第3期諸窟、第4期諸窟)に、それぞれいかなる形式上の特徴を持つ造像が造られたか、また初唐時期と盛唐時期の間にいかなる様式、形式上の変化が存在し、それは中原(西安)からの情報に起因するのかなど、解決すべき問題がいくつも存在する。そこで補修を受けるが原型を留める造像も対象に含め、初唐時期の前半(唐前期第1期諸窟)から盛唐時期の後半(唐前期第4期第2類諸窟)の代表的な窟を取り上げ、それらの本尊を中心として、菩薩、弟子、力士、天王像などについての分析を進めた。 その結果、以下のことが明らかとなった。敦煌莫高窟では、初唐時期第1期には第57窟本尊に見るように隋時代の特徴を色濃く残すが、第2期の初め(第220窟)に西安620~630年代の流行形式が伝えられた。そして第2期末(第328窟)に則天武后期(690~705年)の、第3期初頭(第66窟)に中宗、睿宗時期(705~712年)の西安仏教美術の情報が流入した。敦煌莫高窟第2期においては、それは敦煌莫高窟の地域性の形成を促したのに対して(第71窟)、中原(西安)地方の流行形式の受容が重視された第3期には、中国各地に見られる統一的な様式、形式に近い像が造り出されるようになった。そして第4期諸窟(第45、320窟)造像も、中原(西安)地方の様相を時間差なく、かなり正確に反映していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
敦煌莫高窟において、本研究に協力していただいている敦煌研究院副院長の趙声良氏の特別な計らいで、実地調査を8月と10月末の2回、合計10日以上滞在することでおこなうことができた。その際、唐時代前期の多くの窟(70窟以上)の塑像を、丹念に時間をかけて観察、スケッチすることができた。また敦煌研究院研究員との共同研究会を開催し、この調査による結果の検証と今後の研究の方向性や方法を具体的に討議することができた。遺跡と近い場所での研究会の開催およびその後すぐの実地調査による確認作業が、本研究の進展に大きく寄与することとなった。 唐時代前期諸窟の西方浄土変相図に見られる形式変遷、あるいは西安仏教美術との関連が、塑像においても看取できるかどうかが大きな問題であったが、調査及び研究会の結果、概ね壁画と同じ時期に塑像の形式上の変化が起きたことが明らかとなった。また西安仏教造像との関係は、初唐時期(第1,2期)においても見られるが、盛唐時期(第3,4期)に密接となったことを指摘できるようになった。 しかし、唐時代前期全体を通じて、西安仏教美術の情報が敦煌莫高窟へほとんど時間差なく伝えられたのか、あるいは初唐時期に10年ほどの時間差があったのが、盛唐時期に入ってほとんど時間差がなくなり、西安仏教造像からの情報を反映した塑像が造られたのかという問題については、未だ納得のいく結論が得ることができず、19年度も調査と研究会を継続することで、さらに議論を深めていくとなった。 本年度は、塑像の調査だけでなく、石窟内での塑像の配置や壁画の内容との関係についても考察していくことが必要であるとの意見を上記の研究会でいただき、その後での研究会参加者との調査により、その意見の正しさが確認できたことも有益であった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も、敦煌莫高窟における調査と敦煌研究員との合同研究会を継続する。そしてそれ以外にも、西安や西安付近の石窟や博物館、文物管理所などでの調査をおこなうことで、開元、天宝期を中心に中国盛唐時期における「古典様式」成立後の仏教美術の展開という課題について取り組んでいく。 現在、唐時代の首都である西安に残された仏教造像の数が多くないことが、本研究をおこなう上での最大の障害となっている。そのため敦煌莫高窟や山西地方の天龍山石窟、或いは四川地方の巴中石窟や広元石窟などの西安以外の、西安仏教造像と関連を有すると思われる地方、地域での造像調査が不可欠である。だがそれだけでなく、首都西安およびその周辺の、数は多くないものの残された造像の調査が何より重要となってくる。 本年度は、西安にある陝西省博物院や西安市博物館、歴史博物館、西北大学博物館や、西安周辺の薬王山石窟、彬県大仏寺、慈善寺石窟などの調査をおこなう予定である。また、清華大学の李静傑教授とともに、西安周囲の、位置が不明確で日本人だけでは行くことが難しい石窟や、簡単に調査することのできない文物管理所所蔵の造像の調査を予定している。そしてその後に李静傑教授のゼミ生との合同研究会も企画している。 このように中国の研究者たちと共同で調査をおこない、また研究会を開催することで、最新の情報を得ることができるようになる。また私たちの美術史とは異なる、考古学の手法によって研究を進める中国研究者との討論で、共通の認識を得ると同時に、互いの問題点を指摘しあうことで、理解を深め、新たな観点を得ることで、私たちの研究の内容をさらに発展させることができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた中国人研究者が、都合により来日できず、来年度に予定を延期したため。
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