研究課題/領域番号 |
17K02309
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
八木 春生 筑波大学, 芸術系, 教授 (90261792)
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研究分担者 |
小澤 正人 成城大学, 文芸学部, 教授 (00257205)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 開元時期 / 仏教造像 / 敦煌莫高窟 / 龍門石窟 / 房山雲居寺白玉塔 |
研究実績の概要 |
本年度の調査により華北地方の各地で、その強弱はあるが西安造像との繋がりがあったことが理解された。如来像では、720年代初頭に胸筋や身体の厚みが強調された量感のある像が出現し、740年代中頃からは上半身の肉の緩んだ、あるいは肥満した像が流行したことが理解される。その一方720~730年代にこのような写実的あるいは肉の表現を重視しない像も彫り出され、そこには扁平な上半身に刻線で筋肉表現が表されるものと丸みや厚みを有するが、身体の起伏を一切表現しない像も彫り出された。この胸筋表現や腹部の膨らみを示さない像は、龍門石窟の開元時期の造像に多く見られる特徴でもある。 菩薩像の首を傾げ下半身をまっすぐに直立する姿勢は、身体から自然な動きを失わせ、これは筋肉の緩んだ如来像や胸筋が垂下する迦葉像とともに誇張した表現という点で一致する。ふくよかであるのを通り越した肥満する身体や不自然な姿勢、衰えた筋肉を好む傾向は、開元、天宝時期に、ある種の退廃趣向が存在したことを示している。 敦煌莫高窟第45窟如来坐像に、写実的な筋肉表現が見られないのに対して、迦葉像の胸筋は垂れ下がり老人特有の造形となる。本尊如来坐像上半身は袈裟に隠れ、起伏が認められない敦煌莫高窟第79窟では、菩薩像の肉づきが異常によく、臍にはX字が刻まれる。そして迦葉像は袈裟と内衣を肩から落とし、ここでも痩せさらばえた胸を露出している。また房山雲居寺開元10年銘白玉塔(722)では、如来坐像や菩薩像だけでなく、外壁に浮き彫りされた力士像、天王像も誇張された肉の表現がなされていたが、15年銘白玉塔(727)では、その反動のように肉体表現が敢えて抑えられている。つまりこの時期、西安に誇張とその対極にある肉体の抽象化とも呼ぶべ簡略化の流れが並存し、それが各地の趣向に基づき如来や菩薩、あるいは弟子や天王、力士像に受容されたと結論される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本来、昨年度で終了予定であったが、中国社会科学院考古研究所副所長を招聘し、本研究の総括のためのシンポジウムを開催できなくなり、実施を1年延期することを余儀なくされた。中国華北地方における調査は終了し、調査地それぞれの造像との関連や、西安仏教美術との繋がりについても、ある程度明らかにすることができて、その点では順調に研究が進展しているということが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
いつの時点で、中国人研究者の日本入国が認められるようになり、また私たち日本人が中国に入国できるよようになるのか全く不透明な状態である。なるべく早期の終息を願うばかりであるが、状況が思うように変化しない場合は、ズームなどを用いての小規模のシンポジウムを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
いつの時点で、中国人研究者の日本入国が認められるようになり、また私たち日本人が中国に入国できるよようになるのか全く不透明な状態である。なるべく早期の終息を願うばかりであるが、状況が思うように変化しない場合は、ズームなどを用いての小規模のシンポジウムを考えている。そして残りの金額は、その開催費に用いる予定である。
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