本研究は絵画の復元工程のうち、特に復元根拠の選定に焦点を当て、調査とワークショップ開催を通して問題点の指摘と解決を図ってきた。最終年度は美術史研究者と実技系研究者、保存科学者らが共同で行った復元に関わる研究事例の報告を持ち寄り、相互理解と交流の深化を目的として研究会「絵画の再生―改装・復元・復元根拠」を企画開催した(2019年12月26日)。研究会では①「復元思想と絵画の『写し』」、②「御後絵の復元 ―絵画復元と写真資料―」、③「佐竹本三十六歌仙絵の諸問題 ―画風・復元・伝来―」、④「月次祭礼図の復元について」という四件の研究発表を行い、特に④では愛知県立芸術大学が復元した「月次祭礼図屏風」の現物展示を交えて発表者と参加者が活発な意見交換を行った。異分野の研究者が一堂に会することで様々な新知見が得られ、復元模写の学術的利用にも繋がる成果を上げることができた。 また、学生や若手研究者への教育普及を目的として、ワークショップや大学での講義に活用できる動画教材、スライド作成にも取り組んできたが、最終年度には特に言葉だけでは説明が難しい表装や修理技術に関して、「屏風の作り方」「巻子の作り方」「掛軸の作り方」等のスライド教材を整備した。日本画実技に関しては基本的な絵具の溶き方や箔技法、裏打ち等について、日本画家の実演を記録した動画コンテンツを作成し、研究者間での共有化を進めた。 研究期間全体を通して、美術史・実技・科学の研究者が分野を越えて絵画の復元について論議し、復元研究の学術的水準の向上を目指す協力体制を構築することができた。
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