研究課題/領域番号 |
17K02311
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
越川 倫明 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (60178259)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 対抗宗教改革 / ティントレット / 異端思想 |
研究実績の概要 |
平成29年度を通じて、対抗宗教改革期直前のイタリアにおける宗教的思潮に関する文献の収集、内容検討を行なった。主たる対象はベネデット・ダ・マントヴァの『キリストの恩恵』成立の背景をなすベネディクト会系の改革思想に関する著作、16世紀前半の美術家・職人階級におけるプロテスタント思想の浸透の問題を論じたマッシモ・フィルポの著作、およびガスパロ・コンタリーニの思想に関する著作、などである。これらの先行研究が対象とする時期は、レーゲンスブルク帝国議会における教義上の和解の失敗(1541年)の前後にあたっており、この時期以降のカトリック側の態度の硬化が宗教美術にどのような反映をもたらすのか、評価するための基礎となった。 また、2018年秋よりヴェネツィアで開催される大規模なティントレット没後500年記念展覧会のカタログに掲載される欧文原稿を2017年9月までに執筆し、2018年3月までに校正を完了した。同原稿は、2018年秋にイタリア語訳が、2019年春に英語版が刊行される予定である。 さらに、17世紀のキリスト教美術に関連するテーマとして、カトリック長崎大司教区が所蔵する17世紀初期のキリシタン絵画に関する分析を論文にまとめ、長崎歴史文化博物館の研究紀要に掲載・公刊した。 2018年3月には、ローラント・クリシェルの企画による重要な展覧会「ティントレット:天才の誕生」展(パリ、リュクサンブール美術館)を視察するため、短期間パリに出張を行なった。この展覧会は現在のティントレット研究の主要な論争点に関連する重要な内容であった。同展に対する評価は、2018年夏までに展覧会評にまとめ、平成30年度中に公刊する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度における実施事項はおおむね当初研究計画に沿ったものであったが、実際に論文公刊まで行なったトピックは、研究課題に対してやや間接的に関連する内容となった。本来の課題である宗教思潮の問題に直接関連した研究成果を論文レベルで発表するためには、もう少し時間を必要とする印象である。また、当初は想定していなかった論点として、ヴェネツィア共和国に最初に異端審問が導入された時期に教皇特使として滞在したジョヴァンニ・デッラ・カーサ(宮廷作法を論じた著書『ガラテーオ』で知られる)の存在が興味深い問題として浮かび上がってきたため、関連する資料の収集・検討を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に当初計画通り、宗教思想に関する歴史的背景と、同時代の美術制作の状況を突き合わせて考察を進めていく予定である。平成30年度の主要な課題は、一般的な状況の把握から、具体的事例研究として成立しうる作品やイベントを抽出し、論文発表のために必要な材料の整理を行なうことである。 主要な問題点としては、宗教的な教義上の問題は、必ずしも見えやすいかたちで宗教美術の表象に反映されるとは限らない、ということがある。「異端」の問題は、文字で書かれた文献には比較的トレースしやすい(その結果が「禁書目録」となる)半面、宗教美術の視覚的表象の上ではしばしばあいまいな領域が広く残り、ゆえに現実に異端審問によって美術作品が摘発された事例はきわめて少数にとどまるのである。こうした方法論上の難しさをどのように回避あるいは乗り越えられるのか、先行して研究が進んでいる領域(たとえばミケランジェロ晩年の作品群の分析など)をよく参照することによって、検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ごく少額の端数が生じたため、次年度の直接経費に合算して支出する。
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