2022年度の前半はまだコロナ禍の影響があったため、これまで収集した資料の整理や精読を行ったほか、海外の図書館や美術館がオンラインで公開している資料の収集や作品分析も精力的に行い、本研究の推進を図った。 これまでガブリエル・シャネルのリトル・ブラック・ドレスをモダニズムという観点から読み解くことを行ってきたが、今年度は彼女が1920年代に制作を始めた偽物の宝石、いわゆるコスチューム・ジュエリーも研究対象に広げた。モード雑誌や新聞の関連記事の読解に加え、オンライン上で公開されている世界各国の美術館が所蔵しているシャネルのジュエリー作品の分析を行った。その中で、デザインの源泉には、ビザンチンやバロック、さらにエジプトやインドなど、過去の様式と異国趣味が融合した関心が見られること、またそれまでのイミテーションのジュエリーがあくまでも本物らしさを追究していたのに対し、シャネルが最初からひと目で偽物とわかる大ぶりで重量感のあるジュエリーを手がけていたことを確認し、そうした特徴が、流行からは一定の距離を保った独自性を生み出すことにもつながっていたことを知ることとなった。こうした新しい研究成果も折り込み、2022年10月には、シャネルの創作をたどる著作を東京美術より出版した。 コロナの影響も下火になってきた2023年の2月下旬から1週間、パリで資料収集を行った。ガリエラ美術館附属図書館では、ポール・ポワレが異国趣味的な衣装を手がけていた1910年代の写真や雑誌・新聞記事など、新資料を見出すことができた。また、色使いや素材の選択など、ジャンヌ・ランバンの1920年代の創作に見出される漆作品への関心について学芸員らと意見交換を行い、新たな知見を得ることができた。
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