今年度は仏像の像内に「胎内仏」と称される小仏像、もしくは破損した仏像の一部を納入する事例に注目し、それによる仏像への聖性の付与についての研究を進めた。昨年度までは、仏性の象徴で「ほとけの魂」とみなされる心月輪の像内納入について重点的に検証してきたが、そこでの知見は小仏像や破損仏の納入の検証にも応用できるとの見通しのもと、実作例と史料の情報を収集し、その歴史的展開をあとづけるとともに、信仰背景の考察に努めた。 従来の認識では、納入品の小仏像や破損仏の聖性が重視されるいっぽう、それを納入する仏像は入れ物にあたる「鞘仏」として消極的に評価される傾向があった。本研究では、納入される小仏像は材質や由緒によって霊像と認識された例が多いこと、破損仏は古い像であることに加え、災難から自発的に逃れたとの由緒が注目されてきたことを確認した。ただし、「胎内仏」の高い評価は外側の仏像の価値を相対的に低からしめるものではなく、むしろ内外の像が一体として霊的な存在とみなされていた形跡が、寺社縁起や造像銘記を網羅的に検証することで浮かび上がった。以上の考察により、顕著な聖性を持つ像を鞘仏によって守るとの見方は一面的で、むしろ納入品を持つことで外側の像が霊像化するとの認識が根強く存在していたことが判明した。以上の指摘は、年度末に報告書を刊行して公表することができた。 この考察結果は、像内納入される小仏像が必ずしも既存の古像ではなく、外側の像と同時期、あるいはより新しい場合を視野に収めることで補強される。像内納入品として小仏像を新規に用意した事例は少なからず存在し、そこでは小仏像は保護される存在というより、仏性の象徴としての機能が重視されていることが確認され、その意味において心月輪と同様の納入の必然性が見出されるのである。以降は新像の納入と心月輪の納入との関係について、研究結果を公表する予定である。
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