研究課題/領域番号 |
17K02317
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
青野 純子 明治学院大学, 文学部, 教授 (20620462)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オランダ / 絵画 / 17世紀 / 18世紀 / 市場 / 受容 / 競売 / 風俗画 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、17世紀オランダ絵画受容の黎明期である18世紀において、17世紀絵画がオランダ美術の典型としていかに規範化され蒐集され鑑賞されたのかを、18世紀の国際美術市場とコレクション形成の文脈で考察することである。なかでも「農民画」に焦点を当て、オランダ風俗画の受容のあり方を分析する。 本年度も新型コロナウイルス感染症流行の影響により、オランダでの調査は実施されなかったが、ヨーロッパ、アメリカの美術館・資料館から収集した多くの画像・文献・資料をもとに研究を行なった。昨年に引き続き、18世紀競売市場における絵画の値段の決定プロセスについて考察を進め、新たに18世紀オランダの「複製素描」を調査した。 【研究内容・成果】 18世紀オランダの複製素描制作と絵画の競売との関係を調査した結果、複製素描が17世紀オランダ絵画を色鮮やかに複製し、油彩の筆致を生き生きと伝える芸術であると同時に、活発な競売市場において有名コレクションの絵画を記録する媒体として機能していたことが明らかになった。オランダ農民画を複製した素描もまた、競売をめぐる画商の販売戦略と密接に関わっていたことが浮き彫りになった。 上記の複製素描に関する研究の成果を論文としてまとめ、18世紀オランダの競売システムの全体像に迫る論文集(蘭語、『芸術・知識・資本―1670~1820年のオランダ競売市場における巨匠たち』2022年6月Walburg Persより出版予定)に寄稿した。複製素描と競売の関係については国内の研究会にて口頭発表を行い、また17世紀末から18世紀初頭に活躍した画家ヤン・ファン・ミーリスによる風俗画伝統の継承に関して考察を行い、新刊の書評として学術雑誌Oud Holland Reviews(オンライン版)に発表した。18世紀競売目録に見られるレンブラントの評価に関する小論を執筆、発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症流行の影響により、昨年に引き続き、予定していたオランダでの作品調査と資料収集を行うことができなかった。が、一方では、既に行った調査の内容とオンラインで収集した資料を組み合わせて成果を上げられるよう、調査対象を広げ、新たな視点で研究を進めることができた。学術論文を執筆、口頭発表を行うなど、今後のプロジェクトの総括につながる一定の成果をあげられた。 とりわけ18世紀の複製素描を研究対象として分析に加えることで、18世紀における17世紀オランダ風俗画、農民画の評価の高まりを当時の競売市場の文脈おいて考察することが可能となった。 18世紀オランダとフランスの競売目録の閲覧・調査は、Art Sales Catalogue Online (Lugt's Repertoire Online Database)等の使用で可能となり、また絵画と素描の来歴調査は、世界各国の美術館が公開するコレクションのデーターベース、RKD(オランダ国立美術史研究所)のデーターベース、Getty Provenance Index等の使用により実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度をプロジェクトの最終年度としていたが、新型コロナウイルス感染症流行の影響が考慮され、2022年度まで1年間延長することが可能となった。そのため、2022年度中にプロジェクトの総括を行う。 2022年度内、国外調査が可能となれば、9月頃にオランダに赴き、予定していた調査の一部を行う予定である。また、プロジェクトの成果となる論文を執筆予定であり、また年度末にオランダ美術の「オランダらしさ」の評価・形成について考察するシンポジウムを開催し、そのシンポジウムの成果も論文としてまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症流行の影響により、オランダなど国外での作品調査・資料収集を行うことができず、旅費を含め、調査に必要な支出が予定より少なくなったため、次年度使用額が生じた。 2022年度は延長の末の最終年度となるため、オンラインでの資料調査(有料)に加え、高画質デジタル画像の入手、論文や口頭発表の準備などに関わる支出が増えると考えられる。また年度末に予定をしているシンポジウムの開催の費用としても支出が見込まれる。
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