研究課題/領域番号 |
17K02319
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
吉田 雅子 京都市立芸術大学, 美術学部, 教授 (40405238)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 染織 / 綴織 / 工芸 / 国際 / 日本 / 中国 / ヨーロッパ |
研究実績の概要 |
本研究では日本の染織を代表する綴織に焦点を絞り、従来の時代区分を貫通する長い時間枠を設定し、江戸時代後期から現代までの綴織の流れを研究対象とする。特にターニングポイントとなった三つの時期の作品を調査し、外来の綴織と比較して異文化の受容の側面に光をあてながら、それらの材質・技法・表現などの特徴とその変遷を明らかにすることを研究目的とする。 以上のような研究の初年度(平成29年度)は、外来の綴織の影響を受けて日本で綴織が織り出された江戸後期を調査の対象とした。江戸時代における綴織の成立に関しては諸説があり、一次史料の記述に齟齬があるにもかかわらず、それらは十分に検討されて来なかった。そのためまず、一次史料における江戸時代の綴織の記述を精査した。その結果、管見の限り日本製の綴織として一次史料において確認できる最も早い年代は、『祇園会占出山神具入日記』に含まれる林瀬平の作に附記された寛政6年であることが判明した。 また、当時の綴織の作者を調べ、日本製であることが確実に裏付けられる作品を選び出し、史料の記述が作品と適合するか、付随する年代は何かなどを検証した。その結果、江戸時代後期に日本で制作された絹製の綴織は、中国の綴織を母体に形成されて発展したこと、次第に日本の画題が用いられ始めて日本独自の表現に向かって行ったことが改めて浮き彫りになった。 本年度はさらに、ベルギー王立美術歴史博物館やパリのゴブランギャラリー等において、比較研究のための調査を行った。また、リヨン染織美術館における織物分析セッションに参加し、ヨーロッパ式織物分析を研修した。さらに日本の長浜において、江戸時代に制作されたヨーロッパの綴織の模作を調査した。 そして以上のような研究内容の一部を、後述する論文と国際学会における2件の発表の形で公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の項に記した通り、初年度に当初計画した調査内容はほぼ順調に遂行することができた。また、文献資料の調査内容は論文として公表することができた。しかし、実物調査を始めたところ、作品自体がかなり複雑な内容を有するものが複数現れた。これらは性急に本年度中に論文にまとめるよりも、さらに時間をかけて慎重に考察した方が良いため、本年度はそれらを論文化せず、30年度に論文化してゆきたい。 筆者は染織品の国際展開を研究主題の一つにしており、今まで刺繍を中心にしながら綴織も含めて調査を進めてきた。その成果の一つをサンクト・ペテルブルクのエルミタージュ美術館における国際会議で発表した(Expression of Power)。また、京都で開催された国際会議に招聘され、もう一つの成果を発表した(Global Circulation and Transformation...)
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今後の研究の推進方策 |
本年度にヨーロッパで行った調査はヨーロッパの綴織の基本調査であり、それらの材質や技法の特徴を確認するためのものであった。しかしパリのゴブラン・ギャラリーに行った際に、期せずして収蔵庫において一つの作品に巡り会い、その調査が実現した。この作品は祇園祭の保昌山伝来の綴織と近似しており、中国製と推察される大変貴重な品であるが、今だ詳細に調査されたことがなかった。 本研究に着手する以前は、江戸時代の作品調査は平成29年度限りとし、翌30年度は近代以降の作例の調査に移ろうと考えていた。しかし、この作品が運良く現れたため、30年度も江戸後期の綴織の比較調査を引き続き行いたい。特に祇園祭などを中心とする江戸時代後期の中国製、日本製、ヨーロッパ製の綴織の調査と比較考察をさらに遂行し、実物作品の調査に関する論文をとりまとめたい。 実際に調査をしてみないとわからないが、もし上記の調査に若干の時間の余裕が生じた場合は、第二期の近代以降の綴織に関する調査にも徐々に着手してゆきたい。第二期は、外来要素を取捨選択して美術織物としての綴織が形成されていった明治から昭和初期にかけての綴織を対象とする。特に、川島甚兵衛や山鹿清華等に関して、文献や実物資料を中心に調査を行いたい。 また30年度には、TSA (Textile Society of America アメリカ染織学会) がカナダのバンクーバーで開催される。この国際シンポジュームにおいて日本の綴織に関して発表する予定である
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