2019年度の調査として、4~5世紀に数多くの例が知られているうろこ模様および格子模様の内陣障柵の起源を考察するために、紀元3世紀以前の「柵」について、図像資料および考古資料を収集した。資料収集は主にエクサン=プロヴァンスの地中海人文科学センターで行った。 また、カロリング朝期の組みひも装飾の内陣障柵の特にフランスにおける分布状況を調査し、ランゴバルド文化圏起源と推定されるこの装飾と典礼改革の関係性について考察を進めた。 上記の調査を進めつつ、前年度まで考察を進めていたロゼット・モティーフの問題について、地元工房の彫刻装飾の土着側面と古代伝統の側面の分析研究をさらに深めるために、イングランド北部のリーメス地域の古代末期の彫刻遺物について現地調査を行った。 暫定的な結論として、木造ないし金属の柵を模倣した石造の柵が古代ローマの世俗領域にすでに広く使用されており、その形態がキリスト教の設備にも転用されたことは確かであるが、これまで資料化され出版されている作例の少なからぬ事例が、異教・キリスト教起源か、あるいは至聖所の囲みか聖人の墓の囲みか、区分されておらず、特にローマの世俗建築の領域などから発見されたカンケッリの断片については、実際には機能と年代が不明確な事例が大多数であり、再検証の必要性があるということ。「柵」図像の象徴性については3世紀のキリスト教墓地での役割が4世紀の典礼備品装飾に一定の象徴性を与えたのではないかと仮定されること。初期中世の地元工房での装飾モチーフ選択には、技術的理由が大きいと推定されること、などがあげられる。
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